旅烏の「徒然グサッ!」〈11〉
Lumina誌面でおなじみの「旅烏」こと作家でトライアスリートの謝 孝浩さんが、日々のトライアスロンライフで心にグサッときたことを書き綴るショートエッセイ
※前回の【旅烏の「徒然グサッ!」〈10〉自転車に優しい街 スペイン・サンセバスチャン】はこちら
トライアスリート恒例の年末行事「煩悩スイム」
2017年もあとわずかになってきた。
年忘れ練習会やチームや練習仲間との忘年会など、トライアスロン関係だけでもイベントが目白押しの方も多いだろう。
旅烏もしかり。バタバタの毎日だ。
そんなあわただしい師走の中でも、欠くことのできないのが「煩悩スイム」。
煩悩(ぼんのう)
衆生の心身を悩乱し、迷界に繋留される一切の妄念。—————広辞苑
むむむ。
25mとか50mを1本として、108本泳いで、その数だけあるとされる煩悩を払っていくというのが「煩悩スイム」だ。
この行事(行為?)をはじめた人は誰なのだろう。
きっと普段から泳ぎ親しんでいるスイマーのような気がしているが、トライアスリートという可能性もある。(諸説あるとは思いますが、どなたか知っている方、教えてください)
旅烏自身もトライアスロンをはじめるまでこの言葉は知らなかった。
トライアスリートになって、数年目には、すでに恒例の年末行事だった。
108本という本数が、トライアスリートの酔狂心をくすぐるような気がする。
25mを108本で2.7㎞。50mなら108本で5.4㎞。
普段泳いでいる距離よりもかなり長いが、レベルごとに、なんとか完遂できそうな絶妙な距離。
アイアンマンの距離でも3.8㎞なので、旅烏は普段の練習でこんなに泳ぐことはない。でも年に一度くらい、腕がちぎれそうに痛くとも、頑張ってみようという気にさせるのだ。
本当はその年のさまざまな出来事を反芻しながら、1本ずつ味わって泳いでいくのがよいと思うのだが、油断していると泳いだ本数が曖昧になる。そんな場合は、怪しいと感じた本数をやり直すことにしている。
本数を増すごとに、腕や肩が痛くなり、精神的にもボーッとしてしまい、何度も本数がわからなくなって、嬉々として進まないが、煩悩を残すよりマシだ。きっと毎年、かなり多めに泳いでいるに違いない。
数年前、煩悩スイムをしていた最中に、監視員にプールから上がるように言われたことがある。年末なので閉館時間がいつもより早いというのだ。
「そんな、馬鹿な!」
思わず監視員に声を出したことを覚えている。
その年は、煩悩を抱えたまま年を越してしまったのである。
とほほ。
今年の旅烏の煩悩スイムは、泳ぎ締めの28日を予定している。
これが終わらないと、なんとなく気持ち悪い感じだ。完遂すれば1年の間にこびりついた穢(けが)れが剥がれて、プルンと脱皮する感じがするから不思議だ。
さあ、みなさんも今年の煩悩をしっかり払ってLET’S SWIM !
※次回の【旅烏の「徒然グサッ!」〈12〉エントリーするかしないか、それが問題だ!】はこちら
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■著者プロフィール
謝 孝浩 (しゃ・たかひろ)
1962年長野県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。 在学中には探検部に所属しパキスタン、スリランカ、 ネパールなどに遠征する。卒業後は秘境専門の旅行会社に就職し、添乗員としてアジア、アフリカ、南米など世界各地を巡る。2年で退職し、5カ月間ヒマラヤ 周辺を放浪。帰国後はPR誌、旅行雑誌、自然派雑誌などに寄稿するようになる。現在は、トライアスロン雑誌での大会実走ルポなどを通じて日本にも目を向けるようになり、各地を行脚している。著書にルポ『スピティの谷へ』(新潮社)、小説『藍の空、雪の島』(スイッチ・パブリッシング)など。http://www.t3.rim.or.jp/~sha/