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<稲田弘さん> 若さと強さの秘訣は鏡を見ないこと!? 86歳のアイアンマン世界チャンピオン トークショー

投稿日:2018年11月19日 更新日:


ルミナ編集部

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2017年アイアンマン世界選手権(コナ)©Kenta Onoguchi

70歳からトライアスロンをはじめて今年でコナ8回目

2018年のアイアンマン世界選手権(ハワイ島・コナ)の80歳以上のカテゴリーで優勝し、コナ最高齢完走記録を更新して世界チャンピオンとなった稲田弘さん。

トライアスリートのみならず、一般の人にも向けた稲田さんのトークショーが武蔵野市トライアスロン連合主催で、11月17日(土)武蔵野プレイス(東京都・武蔵野市)で行われた。聞き役は、シンガーソングトライアスリートとしてもお馴染みのトライアスロン歴35年を誇る古代眞琴さん

「今が青春」と題し、70歳からトライアスロンをはじめ、今年8回目のアイアンマン世界選手権に挑戦した稲田さんの生きる力について語った。

トライアスロンを知らない人も含めて定員100人は満員御礼となった。参加者からの事前のアンケートには、「稲田さんを知って70歳からトライアスロンをはじめて3年目です」「勇気をもらっています」「稲田さんを見て、マラソンからトライアスロンにチャレンジしたいと思っています」など多くの意見が寄せられた。

トライアスロンを始めたきっかけは

60歳で奥様の介護を機に仕事を辞め、近くにジムができたことをきっかけに水泳を始めた稲田さんは、69歳で最初のバイク(18万円)を購入し、70歳のときに51.5㎞でトライアスロンデビューした。その後トライアスロンにのめり込み、51.5km➡ミドル➡アイアンマンと距離を延ばす。佐渡Bタイプを完走したのが、75歳。76歳でアイアンマン・ジャパン五島長崎(当時)に挑戦し、ランを半分走ったところで、タイムオーバー。

古代さん(写真・右)は稲田さんの話をリードしながら、トライアスロンを知らない人にも分かりやすい内容でトークショーを進める

稲田■トライアスロンをはじめてからは割と順調に距離を伸ばして、完走もできていたので、この時初めて挫折を味わいましたね。

その五島長崎の悔しさをバネに、リベンジのため稲毛インターナショナルトライアスロンクラブに入会し、本格的にトレーニングを開始する。

稲田■オリンピック選手もいるようなクラブチームだからさ、入れてもらえるかドキドキしてたんだけど、「会費さえ払ってもらえれば」って言われてさ(笑)。

入会してから、オリンピアンと同じプールで泳ぎ、同じ距離をバイクで走り、一緒にランニングトレーニングを行った。

稲田■私が3000m泳ぐときに彼らは8000m泳いでいるし、バイクも同じ距離なら私は倍の時間かかっています。けれど、これで日常生活が一変しました。意識が変わって食事も酒も気を付けて。

そして、78歳でアイアンマン・コリア(韓国)を15時間台で完走し、リベンジを果たす。さらに、アイアンマン世界選手権への出場権も獲得し、いよいよ人生の岐路となるコナへ。2011年79歳で出場した初コナは、体調も気分も絶好調で臨んだが、スイムでリタイア。とぼとぼとバイクをピックアップしてホテルに戻ったそう。

稲田■もうね、何やってんだ、俺は、って思ってね。みじめで情けなくて、悔しくてね。ホテルに帰って、布団に潜り込んで泣きましたよ。

そこから稲田さんのコナへの挑戦の旅が始まる。

2011年(79歳)●スイムリタイア
2012年(80歳)〇15時間38分で完走、チャンピオンに<見事リベンジ!>
2013年(81歳)●DNF
2014年(82歳)●DNF
2015年(83歳)●DNF(5秒足りず)
2016年(84歳)〇16時間49分13秒で完走<チャンピオン>
2017年(85歳)●DNF
2018年(86歳)〇16時間53分50秒で完走<チャンピオン>
※年齢はその年12月31日時点

2勝5敗で迎えた今年のコナ

稲田■今回のレースの前に、世界中からSNSにメッセージが来ました。MCの人からは『今年はフィニッシュで待っているからな』と絶対帰ってこい、というプレッシャーもかけられて。こんなに多くの人から応援されていたら、こりゃ完走しなけりゃ日本に生きて帰れないと思っていましたね。

世界中からメッセージが届くほど稲田さんを有名にしたのは、2015年のレースだ。フィニッシュラインまでほんの数mの所、フィニッシュロードで2度倒れ、最後まで走り切ったが制限時間の5秒遅れで完走が認められなかった。そのときの写真や映像が拡散されると、世界中から稲田さんを応援する声が集まり、さまざまな海外メディアでも取り上げられた。だから、今や日本にとどまらず、世界の“HIROMU INADA” になった。

稲田■あのとき、僕は自分ではフラフラしているとも思っていないし、間に合ったと思っていたからね、翌日のパーティーのときに、表彰のステージの所まで行きました。そしたら「あなたは完走していないよ」と言われてね、そのときに初めて知ってさ、かっこ悪いったらないよね。信じられませんでしたよ。

稲田さんの素直な語り口に引き込まれる参加者の皆さん

2016年は無事に完走し、2017年はバイクのフィニッシュ時点でタイムアウト、ランに移ることができなかった。そして、迎えた今年、見事に世界チャンピオンの座に帰ってきた。

稲田■フィニッシュしたときは、達成感とか嬉しいというよりも、ホッとしたというのが一番。大勢の人がゴールを待っているわけだから、それに応えられてホッとしました。待ってくれている人、支えてくれている人が僕のモチベーションなんです。

スイム、バイク、ランともに制限時間との戦い。自分のためではなくて、人のためにレースをするという稲田さん、それでもレースを諦めそうになったことはないのだろうか。

稲田■諦めるってことはあり得ないですよね。僕が走り続けられるのは、ランのときにマットの上を通過すると“ピッ”ってなるでしょ? あれのために走っているんです。というのはね、あの上を通過すれば、アスリートトラッカーで僕のレースを追っている人に、“稲田は無事だ、走っている”っていうのが伝わるでしょ? 応援してくれている、支えてくれている人を安心させられる。だから“ピッ”のために走るんですよ

2019年のコナ出場が認められたという証明の切符

「ママ―助けてくれー!」今も最大の支えは妻

血小板減少紫斑病という難病を患っていた奥様。奇しくもそれが大きな転機となり、トライアスロンと出会った稲田さん。

稲田■最初は、病気の妻にトライアスロンをやっていることを隠していてね、ナンバリングが残っていると、ちょっと水泳の大会があってとかウソをついていたんです。でも、結局バレちゃって。というか妻は全部お見通しで。「やるなら堂々とやりなさい、やるからには頑張って。私の分まで頑張ってね」と言ってくれました。これが本当にうれしくてね、一緒に山登りやテニスをしていたので、自分が動けなくなって妻は無念だったと思うんです。でも“私の分まで”と言ってくれた。

と奥様との思い出も包み隠さず話してくれた。思わず稲田さんの目から涙がこぼれ、会場もそのときばかりは涙をする人も。

古代■では、レースのときふっと奥さんが下りてきてくれることもあるんですか?

稲田■降りてくるどころか、ここ(肩)にいますよ。僕は脚がつりやすくてね、バイクでつると本当に痛くて全身が硬直してしまって叫ばずにはいられないくらい痛い。どうしよもなくなったときに「ママー助けてくれー!」って言ったこともあります。1回だけですけどね。そしたらね、なぜかメディカルが来てくれて助けてくれたこともありました

トークショー後は稲田さんと直接話したり、写真を撮りたい人で長蛇の列に。まるでアイドルの握手会のようだった

86歳、日々のトレーニングについて

古代■毎日のトレーニングについてはどういった心持ちでしているんですか?

稲田■自分のためではなくて、応援してくれている人に突き動かされている。だから頑張らないといけないんです。なんだかんだ言っても歳もありますからね、体力的に維持していくことが一番大事です。一番好きなのは、バイク練習です。日々の進化が励みになるし、楽しい。できないことができるようになったり、昨日よりも今日のほうがいいことがあると「やるぞー!」とやる気もでる。スイムはだいたい3000m、ランは多くて30㎞、少なくて12㎞くらい。雨の日はトレーニングはお休みです

古代■雨の日は残念? うれしい?

稲田■そりゃもう、大喜び! 休みも必要ですからね。

古代■(笑)良かった、僕らと同じだ。たまに雨だと残念というツワモノもいますからね。聞いて安心しましたよ。では、食事はどうですか?

稲田■アスリートの身体を作るものを、とこだわっています。もちろん、自分で料理していますよ。夕飯でいうと、毎日だいたい同じもの。たんぱく質がやはり大事ですからね。メインはメザシ、カルシウムも摂れるしね。あとは、納豆は毎日必ず1パック、それに発酵食品のキムチ、具沢山の味噌汁、玄米一膳と梅干もあれば食べる。数年前までは、周りから食い過ぎと言われるくらいたくさん食べていたけれど、今は人並になりましたね。量を抑えていますよ。

講演後ほっとした様子の稲田さん。握手会で30分立ちっぱなしだったので「大変でしたね」と声をかけると「良いトレーニングになりました」と!

古代■本当に生き生きしてますね、今が青春ですか?

稲田■今までの人生でこんなに夢中になれることはなったから、楽しくて仕方ない。今が青春ですね。

古代■若さの秘訣って何かありますか?

稲田■鏡を見ないことだね。鏡を見るとね、「なんだ、こんなジジイ!」って自分でびっくりする。自分が思っているよりもずいぶん爺さんが写っているからさ。現実との差にね。気持ちは若いから見なければ若いままでいられるし。よく年齢のことを聞かれるけれど、年齢は全く気にしていないんですよ。

世界チャンピオンになろうとも、自分のレースに満足していない稲田さんは

稲田■来年(2019年)はもうちょっとマシなレースがしたいと思っています。できれば、90歳まではやりたいし、その先も。いつまでやるかという上限は決めていません。

最後は稲田さんが大好きだという古代さんの代表作「Try your best」のLIVEで幕を閉じた。

自分の気持ちを素直に話す稲田さんの言葉は、胸に響き、うなずいたり、涙ぐんだり、笑ったり、共感や尊敬の想いが参加者側からあふれ出ているような雰囲気だった。『Lumina』では今後も今年のコナでの様子を含めた稲田さんの記事をアップしていく予定なので、お楽しみに。

2017年アイアンマン世界選手権(コナ)©Kenta Onoguchi

プロフィール■いなだ・ひろむ
アイアンマン世界選手権2018年時点での最高齢完走者記録(86歳)をもつ世界チャンピオン。70歳でレースデビューし、2011年から8年連続コナに出場している。元NHK記者で数か国語を操る。1932年11月生まれ。

こだい・まこと
シンガーソングランナー(シンガーソングライターでもあり、アスリートでもある)。宮古島など国内大会を歴戦してきたベテラントライアスリートで、徳之島トライアスロンには開催当初から出場し続けている。同大会直後の「どんちゃんパーティー」でのライブパフォーマンスが有名。「ふれあい」をテーマに都内を中心に小中学校や各施設を訪れ、ミニライブや手話パフォーマンスを取り入れ、子と父兄との心のバリアフリーを考える活動をしている。HP:http://www.kodai.cd-shop.jp/index.html

もっと稲田さんを知りたい!という人、関連記事はこちら。

▶85歳の稲田弘さん、KONA最高齢完走記録を更新(Facebook)
https://www.facebook.com/TriathlonLUMINA.jp/photos/a.539465089433651/1930691166977696/?type=3&theater

▶過去のテレビ番組出演情報
https://lumina-magazine.com/archives/6404

関連記事掲載号はこちら<電子版のみ>
▶2012年8月号(エイジグルーパーをえがく旅)
https://triathlon-lumina.com/lumina/vol/vol10.html
▶2016年5月号(田中敬子×稲田弘対談)
https://triathlon-lumina.com/lumina/vol/vol55.html

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コメント

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  1. とてもいいお話ですね。。!

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