COLUMN GEAR

サーヴェロ「P」と「PX」の違いと、次なる進化への期待。

投稿日:2019年6月17日 更新日:


大塚修孝

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3月の米・アリゾナで開催されたサーヴェロP&PXシリーズのメディアローンチ

GERONIMO大塚のトラモノ批評 #002

サーヴェロの新型発表に見る、モデルチェンジへの期待と課題 《後編》

文・写真提供=大塚修孝(Triathlon GEROINMO/トライアスロンMONOジャーナリスト)
写真=小野口健太

>>>サーヴェロの新型発表に見る、モデルチェンジへの期待と課題 《前編》を読む

【サーヴェロのP&PXシリーズと、そのすみ分けについて】

今回、サーヴェロがリリースしたモデルは、新型P5とP3Xだが、サーヴェロは、昨年、これまで一系統と思われていたPシリーズを、トライアスロンとTTの「Pシリーズ」と、トライアスロン専用の「PXシリーズ」に分けているのだ。少なくともこの時点で、モデルチェンジ、モデル追加などが予想されていた。

Pシリーズは、最新型がP5Xではなくなったため、新型P5が必要となり、PXもシリーズ化したため、下位グレードの登場に期待が集まっていた。

さらに先を言えば、サーヴェロは、「5、3、2」とグレードを変えシリーズを構成しているため、P3Discが発表されるのも時間の問題だろう。

サーヴェロP&PXシリーズ新型発表のうち、先に発表された「New P5」

【トライアスロンとTTについて】

TTは短距離(20~40km程度)、トライアスロンは長距離(180km)+ランを想定している。単純な比較をしてみると――

ツールの個人TTも距離、コースにもよるが、フラットで20km程度であれば、平均時速50~53km前後は出るだろう。

一方、アイアンマンでは昨年のコースレコードから見ると平均時速は43kmオーバーだ。

走りから見れば全くの「異種」と言える。ランで言えば、10kmランとマラソンの違いだ。したがってトライアスロンバイクの場合は、「快適性」「乗り味」などのキーワードが出てくる。

共通するテーマは、「エアロダイナミクスへの追求」であり、「空気抵抗をいかに抑えることができるのか?」--これは、バイク機材のメーカーとして永遠のテーマでもある。

マテリアルと剛性の面で比べてみると、パワーで走る短距離TTでは、そのレスポンスが良くなるよう高い剛性が求められる。そのためのカーボン素材とその積層を調整し構成する。

トライアスロンでも、剛性は重要であり、低過ぎるというわけではないが、TTと比較すれば、剛性よりも快適性重視傾向がある。

ただ、これも同一メーカー内のことであり、他社と比較した場合、その限りではない。

そして、これが最も重要となるが、そもそも基本的フォームとポジション出しに無理がないかということだ。

最初に目を引くのが、ハンドル高だが、TTとしているモデルは、トップチューブとほぼ「面一」(ツライチ)の低い位置にあることが多い。まずは「低い」と感じるが、これは腕の長さという個人差があり、全体的なフィッティングによって、向き・不向きが決定する。

ハンドルがトップチューブとほぼ同じ、いわゆる「面一」(ツライチ)の低い位置にある状態(サーヴェロNew P5のリリースより)

例えば、脚が短くても、胴が長ければ、一般的にはサイズダウンしなくてもすむということになる。

もちろん腕の長さにもよるが、結果的にサドルとハンドル落差の大き過ぎるポジションにならなければ問題ないだろう。

欧米人に比べ脚や腕が短いといった傾向は、特に日本人に多いと思うが、いずれにしても個人差が大きく、ピンポイントとなる「各人にとっての最適なDHポジション」を「既製品」であるトライアスロン&TTバイクに合わせるアプローチは千差万別で、バイク自体の見た目やデータだけで一概には決められないということだ。

【PシリーズとPXシリーズの違い】

今回のサーヴェロの新製品発表の中で、やはり、気になるのがこの違いだろう。

簡単に言えば、「速さのPシリーズ」、「快適性のPXシリーズ」ということになる。

メーカーの考え方や様々なトレンドの中から、明確にシリーズを分け、「速さ」に徹したモデルが新型のP5。トライアスロンとTTというカテゴリーで見ると、TT寄りのモデルとなるだろう。

ツール・ド・フランスなど世界最高峰のロードレースにおいて、UCIルールをクリアという条件で、最速を目指すバイクであり、エアロダイナミクス、軽量性、剛性を優先に設計されている。

そして、トライアスロンのレースシーンで考えるならば、軽量性、剛性による登坂性能やハンドリング性などが比較的高いことから、「テクニカルコース」にも、より向くことになる。

また、エアロダイナミクスもメーカー発表データでは、PXシリーズのモデルよりも、このNew P5が優っている。

UCIルールもクリアする最速の「TTバイク」と位置付けられるNew P5(サーヴェロのリリースより)

一方、PXシリーズは、「快適性」をテーマのひとつとして挙げている。

サーヴェロのトライアスロンバイクの特徴は、プロ選手が使用するバイクでありながら、「エイジ選手」にも多く使用されていること。

メーカーとして明確にエイジグルーパーをターゲット・ユーザーとし、そのためのリサーチを行い、エイジ選手のためのバイクを完成させた。

快適性も重視した「トライアスロン・バイク」PXシリーズの最新モデルとしてリリースされた P3X。現行のP5Ⅹの下位グレードという位置づけになるが、軽量性や剛性、コストパフォーマンスなどメリットも多い(サーヴェロのリリースより)

また、重要なキーワードとなる「ユーザビリティ」の高さを語る上でも、P5Xの「分割式ハンドル」は外せない。

今回リリースされたP3Xは一体型ハンドルではあるが、P5Xのハンドルと「互換性」があるため、P3Xの「ハンドル分割化」も可能だ。このあたりも一般ユーザーにおいては重要なポイントとなるだろう。

遠征時のユーザビリティを考えたP5Ⅹの「分割式ハンドル」。P3Ⅹへのアッセンブルも可能だという

【P5XとP3Xの違い】

P5XとP3X、両モデルのグレードの位置づけは、どうなっているのだろうか?

モデル名についた数字で見るなら、「3」より「5」のほうが上位モデルにはなるが、微妙な点もある。

メーカー発表の情報をもとに両モデルを比較すると、軽量性、剛性において、P3Xが優っているのだ。ヘッドは8%だが、BBにおいては15%の剛性アップ。その他、システム的なバージョンアップや簡素化などもある。

エクステンションバーの前上り角度を15・10・5・0度に調整できるなど、エクステンションバーまわりの調整しやすさにも進化が見られるP3Ⅹ

また、トライアスロンバイクの「高価さ」という現実的なハードルをある程度下げられたのがP3Xだった。P3X完成車下位モデルは、110万円(税抜)だ。もちろん、これでも十分高価ではあるのだが、P5Xやライバルメーカーの同グレードモデルと比較すると、そのメリットは大きいものとなった。

P3X完成車下位モデル「P3X Ultegra Di2 2.0」価格1,100,000円(税抜)

一方、P5Xはサーヴェロのラインナップの中でも唯一、アメリカ生産であったり、HEDやENVEとのコラボレーションから生まれた、こだわりのバイクで、クウォリティの高い専用バッグ、分割式ハンドルなどのユーザビリティにおいても高次元なアドバンテージをもっている。また、P3Xは、ダウンチューブ下のストレージをコンパクトにして軽量化を図ったが、容量が必要な場合は、P5Xが優ることになる。

そもそもリリースに2年半の差があるため、単純な比較が難しいのだが、サーヴェロの異形「PXシリーズ」に対する取組は、まだまだこれから。

いずれにしても、次の答えは、今年のKONAで確認できるだろう。

■著者プロフィール
大塚修孝(おおつか・のぶたか)
本誌連載などでおなじみのトライ アスロン「モノ」ジャーナリスト。トライアスロンに関わり28 年。特に、アイアンマン世界選手権は、96年から取材を続けて今年で24年目となる。レース出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集力と緻密なデータ分析には定評がある。 Triathlon GERONIMO www.triathlon-geronimo.com

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