前人未踏のKONA「6連覇」を成し遂げたマインドセット
KONAレジェンド、マーク・アレンが約10年ぶりに来日し、おそらく国内では初となる座学セミナーを開催した。日本トライアスロン連合(JTU)とマーク・アレンの長年の親密な関係性により実現したセミナーの模様をお届けするスペシャルコンテンツ、後編は前編で解説したトライアスロン・トレーニングの基本的な考え方(コンセプト)を実戦に応用するコツ。そして、マーク・アレンの真骨頂ともいえるマインドセットについて。
Photographs by Jero Honda
レースでのペーシング
マーク・アレン(以下同)
次に、これまで説明してきたコンセプト(トライアスロン・トレーニングの考え方)を明日のレース(佐渡)のようなミドル&ロングの実戦で、どんなふうに応用したらいいかを説明したいと思います。
Bタイプ(ミドル)に出る人は、MAHR(最大有酸素心拍数)に+10~15拍/分くらいの心拍数でレースをするといいと思います。多くの人は、この心拍数よりも低いレベルでレースをしがちなので、気をつけてみてください。
Aタイプ(ロング)の場合は、MAHRの-5~0(MAHRと同じ)くらいがちょうどいいです。
特にバイクで上記の心拍数を保つことが大事だと思います。
もちろん、数値(心拍数)だけじゃなく、フィーリング(主観・感覚)でそれを測ってもいいでしょう。
ミドルでのペース感覚を説明すると「頑張っているんだけれど、良いバランスを保ちつつ、ちゃんと抑制がきいている」状態。
ロングの場合は、これらとはまったく違った感覚で、「ちょっとだけ頑張っている、ロングトレーニング・デイ」という感覚。
ついやる気が出過ぎてしまうと思うんですけれど、「レースをしている」という感覚ではなく、「今日はちょっと大変なトレーニングをしている日だ」くらいの感覚です。
ちなみにスタンダードディスタンス(51.5㎞)の場合は、すべてにおいて「頑張っている」。常にプッシュしているけれど、少しだけコントロールしている感覚となります。
Q ロングやミドルのターゲット心拍数に対して「落ちないようにする」感じでしょうか。「それより上げないようにする」という感じでしょうか?
A それ(ターゲット心拍数)を「超えないようにする」という感じで、少し抑えていくといいでしょう。それよりも少し下になる分にはかまいません。
Q マークさん自身は、感覚でペースを決める? それとも心拍?
A バイクは心拍数で決めますが、ランはフィーリングで決めます。
ロングの場合は、スイムがうまくいくときと・そうでないときで、せいぜい5分くらいしか違いません。バイクでしたら、おそらく10分か15分くらいの差でしょう。
それに対してランの場合、失敗したときは、場合によっては1時間とか1時間半も(タイムが)落ちてしまう可能性があります。
ですので、ロングディスタンスは、「ランを最後まできちっと走れるようにレースを運ぶ(組み立てる)」ということが大事なのです。
佐渡(Aタイプ)にもふたつ大きな坂があるようですが、最初から頑張り過ぎないように抑えて入り、最後の大きな坂でも頑張らないで、少し抑えて、最後のランでしっかり走れるようにレースを運んでください。
ランで一番キツいのは、やはり後半です。前半もやはり抑えて、「今日は少しだけハードなトレーニングの日だ」というくらいで興奮しないで走り、ラン25㎞過ぎても、まだ「いけそう」という感覚が残っていれば、そこからペースを上げてください。
トレーニングの成果を十分に発揮するための「マインドセット」
長いレースなので途中で何度も「うまくいかないな・・・」と思う場面があると思います。そういう瞬間が訪れたら、まずはいろいろなことを確認してみてください。
例えば「補給はちゃんと摂れているか」「水分は摂れているか」「オーバーペースになっていないか」それらをちゃんとチェックしてみてください。
それらもすべて大丈夫なのに、それでもやはりうまくいかないという感覚のときは、まず「心を落ち着ける」こと。
アスリートは、それぞれに苦境を乗り越えるための言葉をもっていると思います。例えば「私は風のようにバイクに乗って、羽がはえたように走って」・・・というように。ただ、調子が悪くて、キツくなったときというのは、そういう言葉さえ思い出せないようになっています。その言葉を覚えていたとしても、それが全く信じられないような心境になるかもしれません。
羽が生えたように走っている? とんでもない! 自分はまるで象みたいにドタドタ走っているじゃないか・・・と。そんなときは、深呼吸をして、心を入れ替えましょう。
いろいろバラバラになってしまった考えをもう一度まとめなおして、まずは一息ついて、平静な心を取り戻す。
心が平静になると、冷静な考えが戻ってきて、まわりがよく見えるようになって、景色なども見えてくるようになります。佐渡のような美しい景色も楽しめるようになるでしょう。
ネガティブな考えはなくなって、外からポジティブな力を取り入れられるようになってきます。
うまくいかないことも、キツさもすべて受け入れて、「でも自分は、これを好きでやっているんだ」と思えるようになる。
(セミナー参加者の)皆さんは、明日がレースですので、今から「もっとスピードランをやればよかった!」とか「もっとロングライドやっておかなきゃ・・・」と思っても、もう手遅れです(笑)。
でも、心の持ち方や、集中の仕方なら、今からでも変えられます。
例えうまくいかなくても、「自分ができるところまでは頑張る」というふうにしてみてください。「次のエイドステーションまでは頑張る」とか。「あの坂の上までは頑張ろう」といった具合に。
それを続けていくと、最後にフィニッシュラインが見えてくるはずです。
1995 KONA:最も辛くて、最も素晴らしい最後のアイアンマン
私が最後にアイアンマンを闘ったのが1995年でした。そのとき私は37歳。当時、37歳でアイアンマン世界選手権(KONA)に勝つというのは、誰もなしえていませんでした。
KONAでの6連勝(※)というのも前人未到のことで、それを目指してレースに臨みました。デイブ・スコットも6勝上げていますが、彼は6度続けての勝利ではありません。
私は、そのふたつの前人未到を成し遂げようとしてレースに臨みました。
レースの序盤は非常に調子が良くて、バイクの20㎞地点まで、過去最速のタイムでレースを運びました。その20㎞地点で、強い「サイクリスト」に抜かれました。
バイクが終わってトランジションに戻ると、トップから約13分半、遅れていました。ハワイで13分半の差を覆して優勝した選手も当時はいませんでした。つまり、それもなしとげたら前人未踏。
13分半という差は、自分の中では平静な心を保って受け止めるには、大き過ぎる差でした。
そこで、意識することをより小さく区切って、「1歩ごとに1秒縮めたら何とかなるんじゃないか」と考えたら、本当に何とかなりそうだと思えるようになりました。
T2ではたくさんの観衆が応援してくれたので、そのエネルギーをできるだけ自分に取り込んで、パワーに換えていこうと思いました。
そこで平常心を保てたことで、「もう終わりだ」という考えがなくなりました。
前人未踏の勝利に至る、ココロの激動。
ところが、ランコースに出たところで、3人の年配の女性たちの「GO Mark! GO Mark!」「・・・あぁー、でも何か今回はダメそうね・・・」という声が聞こえ(苦笑)、それでまた心が折れて、もうフィニッシュできないかもしれない・・・と思いました。
そのとき私の前にいたのは、トーマス・ヘルリーゲルというドイツの新鋭(※1997年のアイアンマン世界王者)で、彼はまだ24歳でした。私の頭の中はグチャグチャで「あー、17歳も年下の男に勝てるわけがない!」と。
「あーもう絶対勝てない! あそこに自分の泊っているホテルが見えるから、もうそのまま帰ってしまおうかな」とホントにそう思いました。
でも、やめてしまったら何もならない。やはりやめてしまうというのは、自分の理念に反することだと思い直し、深呼吸をしました。
そして、私は当時ブラント・セクンダ(ネイティブアメリカンの著名なシャーマン)から、シャーマニズムを学んでいたのですが、その中で覚えた言葉を思い出しました。
それは「恐れに対して恐れないで、その恐れの向こう側に行け」という言葉でした。
島(ハワイ島)に助けを求め、一歩一歩、全精力を注いで歩を進めていったら、島が助けてくれました。
そこで心の平静を取り戻して、すべてが変わりました。
ずっと心の中にもやもやとネガティブな考えが渦巻いていたのですが、それが外に解放されたことで、「うーん、これはイイ感じだぞ!」と思えてきました。
そしてゴールまであと5㎞のところで、ようやくトーマス・ヘルリーゲルをとらえることができたのです。
かくして私の6連勝が成し遂げられ、それが私の最後のアイアンマンになりました。
なぜ、こんなことを皆さんにお話ししたかというと、例えば、動画でそのレースの場面を観たとしても、私の内面というのはわからないと思うんです。
あるいは見た目には、まるで、すべてコントロールしながら冷静に走っているように見えるかもしれません。
誰も私がある地点でレースをやめてそのままホテルに帰ろうと思った、なんて知りようがないでしょう。
バイクを終えて、トップと13分半差があいていると知ったとき、私は今までの中で最悪のアイアンマンを走っていると絶望していました。
でも、最後には、今までで最高のアイアンマン・レースをしたと思いました。
「もうレースをやめよう・・・」と、途中で1000回くらい思ったのですが、そのたびに「やめない」という決断をして、前に進み続けました。
こうしたことが皆さんを強くするプロセスなのだと思います。
最も偉大な勝利は「自分に勝つこと」だと思います。
それができると、フィニッシュした後、自分で素晴らしいストーリーを完成させることができるのだと思います。
(※記録上は1989年~1993年に5連勝の後、1年あいて1995年に6勝目を挙げているが、マーク・アレン自身の中で、家族を優先してKONA不出場だった1994年を除き、6回出場して6連勝ととらえている)
Mark Allen
マーク・アレン
KONA(アイアンマン世界選手権)で前人未到の5連勝を含む通算6勝(歴代最多タイ)を上げたほか、51.5㎞の第1回ITU世界選手権優勝など、数々の金字塔を打ち立ててきたトライアスロン界のレジェンド。KONAでのラン自己ベスト2時間40分(1989年)は、現在のIRONMAN世界王者パトリック・ランゲが2016年に更新するまで、コースレコードとして長きにわたり破られなかった大記録。「禅マスター」と呼ばれるほど精神性についても追究し続けてきた。引退後は指導者として後進の育成にあたるほか、自身が主宰するオンラインコーチングサービスを通じて世界中のエイジグルーパーを指導している。アメリカ・カリフォルニア州在住、61歳。
マーク・アレンが語る、佐渡トライアスロンは
Triathlon Lumina11月号に掲載
世界中のレースを闘い、観てきたレジェンドは日本最大のミドル&ロング「アスロトマン」を観て、どう感じたのか? 日本トライアスロン連合(JTU)とマーク・アレンの長年の親密な関係性により、佐渡に初めて上陸したマーク・アレンの語った内容はトライアスロン・ルミナ11月号に掲載しています。
ロング&ミドルを目指すトライアスリートのための
アミノバイタル®おすすめ使い分け講座〈後編〉
佐渡でのマーク・アレン来日セミナー冒頭、長丁場のレースを闘うミドル&ロング派トライアスリート向けに行われたアミノバイタル® ミニ講座。後編はトライアスリートの間でも、絶大な人気を誇る「アミノバイタル® プロ®」について。
この8月、実に24年ぶりとなる大幅リニューアルを果たした人気&定番サプリメントが、どう進化したか? 学ぶ意欲旺盛なセミナー参加者にあらためて解説した。
AMINO VITAL
今回ご紹介した「青いアミノバイタル®」のうち、アミノバイタル® プロ は、この8月にリニューアルしたばかりです。
従来のアミノバイタル® プロ よりもアミノ酸の量も増えて、シスチンという新しいアミノ酸も含めた、あたらしい成分組成となって、より日々のコンディショニングにオススメできる商品となりました。
さらに具体的に何が一番変わったのかというと、大きな改良点はアミノ酸の組成を根底から見直したことです。
これまでのアミノバイタル® プロ は、BCAA(必須アミノ酸バリン、ロイシン、イソロイシンからなる、いわゆる分岐鎖アミノ酸)を主体にアルギニン、グルタミンなどを組み合わせたアミノ酸組成になっていました。
これに対し、今回の新しいアミノバイタル® プロは、ロイシンが高配合された当社独自のアミノ酸組成にグルタミンや、先述した新配合のアミノ酸「シスチン」などを組み合わせることで、従来に比べて、よりカラダ全体のコンディショニングをサポートできるものに仕上がっています。
結果的に、含有するアミノ酸の総量も、これまでのアミノバイタル® プロ より200㎎多い3800㎎に増えているんです。
アミノ酸特有の「苦み」を抑える技術と、口の中で素早く溶ける顆粒の製造技術を新たに採用して、飲みやすさも大幅に改善していますので、ぜひレース前・中などに試してみてください。
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