Chlorella
今、トライアスリートが注目するホールフード“クロレラ”とは?
健康食品として昔から愛用者の多いクロレラが、最近「免疫機能低下の抑制」や「有酸素性能力の向上」などの研究報告から、エンデュランススポーツの分野であらためて注目されつつある。
そこで運動生理学の研究者であり、クロレラの研究にも取り組む大槻毅・流通経済大学教授と、オリンピック4大会連続出場のレジェンドアスリートで、現・流通経済大学助教・トライアスロン競技部監督の田山寛豪さんに、それぞれの視点からクロレラの特徴やメリット、可能性について話を聞いた。
取材=原 修二
写真=小野口健太
大槻 毅 Takeshi Otsuki
流通経済大学スポーツ健康科学部教授。京都府出身。1975年生まれ。筑波大学大学院体育科学研究科修了(博士[体育科学])。専門は運動生理学で、中高年の健康づくりが主要テーマ。生田目颯さん(元トライアスリート)の指導教員として高強度インターバルトレーニングの研究にも取り組む。十数年前からクロレラ摂取の効果を研究。年に一度のマラソン大会を楽しみにしている。
全体を食べることで
多様な栄養素が摂れる
--クロレラは昔から健康食品として知られていますが、そもそもどんなものなんでしょうか?
大槻 クロレラは単細胞藻類、つまり藻の一種です。食品の栄養素としては、約6割がアミノ酸で、必須アミノ酸をはじめ多くの種類が含まれています。さらに約3・5%がビタミンとミネラルです。食品としての特徴は、全体をまるごと食べられるので、色々な栄養素を摂取できることです。一般に食品は、動物なら骨や皮などを取り除いて食べますし、植物なら実・種子や葉、根など、一部を食べますが、生物として丸ごと食べたほうが、より多様な栄養素をとることができます。
--生物由来の食品にはアスタキサンチンなどもありますが、クロレラとはどう違うんでしょうか?
大槻 アスタキサンチンは鮭やエビなどの生物から抽出した栄養素の一種ですから、特定の成分に特化して摂取していることになります。これに対してクロレラは生物全体として食べますから、多種多様な栄養素を摂取できる。そこに大きな違いがあります。
たとえば、鉄はビタミンCと一緒に摂らないと吸収が良くないといったように、栄養素には組み合わせによるメリットが色々ありますから、多様な栄養素を一緒に摂ることが重要なんです。
スポーツ強化合宿中の
免疫機能低下を抑制
--大槻先生はこれまでクロレラ摂取がスポーツ選手に与える影響について、研究をされてきましたが、その中に免疫機能に関するものがありますね。
大槻 スポーツ選手は合宿など高強度な運動を集中的に行うと免疫機能が低下します。そうすると、風邪をひくなどしてコンディションを崩しやすくなるのです。そこで、ある大学の剣道部の合宿で検証したところ、クロレラを摂取しなかった選手たちのSIgA(唾液などに含まれる抗体で、病原体の侵入を防ぎ、感染予防に重要な役割を果たす)分泌速度が合宿期間中に低下したのに対して、クロレラを摂取した選手たちは低下が認められなかった。
つまり「クロレラ摂取によりスポーツ強化合宿中の免疫機能の低下が抑制される」と考えられます。【※1】
--コンディションを崩して思うようなトレーニングができないアスリートは多いですから、これは注目に値する研究結果ですね。
クロレラ摂取で、スポーツ強化合宿中の免疫機能低下が抑制
▼試験方法
大学剣道部の合宿で女子部員を対象に試験を実施。合宿開始4週間前から合宿終了5日後まで30粒/日のプラセボ(偽薬)またはクロレラを摂取(各10人)。唾液の分泌速度と唾液中のSIgA (病原体の侵入を防ぎ、感染症を予防する抗体)濃度からのSIgA の分泌速度を算定した。
▼結果
SIgA分泌速度はプラセボ群では合宿中に低下したのに対し、クロレラ群では低下は認められなかった。
【※1】Otsuki et al., Nutrition Journal 2012, 11:103
最大酸素摂取量に
及ぼす影響も実験で確認
--最大酸素摂取量に及ぼす影響についても研究発表されていますね?
大槻 エサにクロレラを混ぜるとマウスの持久力が改善したという先行研究がありました。ヒトでの効果を確認しようと考えて、クロレラを摂取するグループとしないグループに分けて、1カ月間、大学生にクロレラを摂取してもらったのです。その前後に体力測定を行ったところ、最大酸素摂取量(酸素を利用してエネルギーを生み出す能力の指標で、全身持久力の重要な要素)が増大しました。驚いて、例数を増やしてもう一度調べたのですが、やはり同じ結果が出たんです。【※2】
--クロレラの摂取でなぜ持久力が改善するのですか?
大槻 酸素の取り込み・運搬能力か、筋肉での代謝か、残念ながら十分に研究が進んでおらず、何とも言えません。
ただ、このときわかったのは、学生の食習慣に問題があるということです。クロレラ摂取を始める前に食習慣を調査したのですが、ビタミンやミネラルのうち厚労省の推奨量が満たされているものは数えるほどでした。ビタミン摂取量が推奨量の4分の1程度の下宿生もいて、自分の目を疑いました。
食生活に問題がある場合、不足する栄養素は人によって違いますし、同じ人でも日によって、もっと言うと朝食と夕食でも違います。クロレラは色々な栄養素を豊富に含んでいるので、栄養不足を補うのに適しているのではないかと思います。
クロレラの摂取により〈有酸素性能力〉が向上
▼試験方法
大学生が2群に分かれ、30粒/日のプラセボ(偽薬)またはクロレラを4週間にわたり摂取。その前後に自転車エルゴメーターにより最大酸素摂取量を測定した。
▼結果
プラセボ群では摂取前後の値に有意差はなかった一方、クロレラ群では摂取前に比べ摂取後に最大酸素摂取量が増大した。
【※2】Zempo-Miyaki, Maeda, Otsuki. Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition 61: 135-139, 2017
抗酸化作用に関する
クロレラの可能性
--クロレラに多くの栄養素が含まれているということは、それだけこれからの研究でわかってくることがまだまだありそうですね。今、先生はどんな研究をされているんですか?
大槻 クロレラの摂取で抗酸化能力にどういう変化があるかを調べていて、論文をまとめているところです。三価鉄をどれだけ還元できるかを測定することで、唾液の抗酸化能を評価できるんです。剣道合宿中の抗酸化能は、プラセボを摂取した学生では低下したのですが、クロレラを摂取した学生では低下しませんでした。そして、抗酸化能の低下が大きい学生ほどSIgAの低下も大きいという結果が得られています。これはあくまで推論ですが、クロレラに含まれている抗酸化物質により抗酸化能が維持され、免疫力の低下が抑えられるのだと思います。
--クロレラのどんな成分が抗酸化作用を発揮しているんですか?
大槻 βカロテンなど候補物質はありますが、実はよくわかりません。というのは、クロレラには色々な抗酸化物質が含まれていて、どれがどう作用しているのか特定しづらいからです。
単一の栄養素だと研究しやすいのですが、クロレラはわかりにくい。含まれる栄養素の多様性がクロレラの良いところですが、研究者泣かせですね。
田山寛豪 Hirokatsu Tayama
NTT東日本・NTT西日本/流通経済大学 助教。茨城県出身。1981年生まれ。流通経済大学卒。トライアスロン競技の日本代表としてオリンピックに4大会(アテネ・北京・ロンドン・リオデジャネイロ)連続出場。日本選手権では史上最多の通算11回優勝という記録をもつ。現在は流通経済大学助教・トライアスロン競技部監督として、選手の指導育成に当たっている。2年前からクロレラを選手たちと継続して摂っている。
遠征時におなかの調子が整う
--田山さん率いる流通経済大学トライアスロン競技部で、クロレラを継続的に摂取しているとのことですが。
田山 はい。2年くらい前に大槻先生から紹介されて、クロレラの栄養などについて教えていただき、それから継続的に摂取しています。
私自身は選手時代に、海外遠征のときなどに青汁をよく持っていってたんですが、そのときの気分でクロレラを持っていくこともありました。海外では食事を思うようにとれないことがありますが、クロレラを摂ると体調が良くなるのを感じていました。
遠征の移動日には
クロレラを多めに摂る
--体調が良くなるというのは、具体的にはどんなところで感じましたか?
田山 海外では、定時の排便がなかったり、おなかの調子がいまいちなとき、クロレラを摂って改善されたことがあったんです。
大槻 クロレラの試験をしているときも、研究対象者から「便通が良くなった」というのはよく聞きます。クロレラには食物繊維が含まれていることは確認しており、これが関係している可能性がありますね。
田山 遠征の移動では身体をずっと固定しているので、体調を崩しやすいんです。トライアスロン競技部でクロレラを継続的に摂るようになってからは、学生たちに国内外の遠征時の移動前と現地に到着した夜にもクロレラを摂るよう勧めています。
大槻 以前、スピードスケートの特別強化選手がカナダに遠征したとき、国立スポーツ科学センターの研究員が帯同して、データをとったことがあるんですが、移動の翌日に唾液を採取すると、みんなSIgA(抗体)レベルが下がっていたんです。特に低下が大きい選手は、実際に風邪をひいてしまったそうです。
運動だけでなく、心理的なものなど、他のストレスがかかる状況ではコンディションを崩しやすいので、クロレラを積極的に摂るというのは良いアイデアだと思います。
食事の栄養をしっかり
吸収できるようになった
--クロレラを継続的に摂るようになって、日常の変化はありましたか?
田山 食事で食べたものがしっかり身体の中に入っていく、身体が吸収していることをすごく感じます。それまで色々なサプリメントをとっていたのが必要ないと感じるようになりました。
学生たちは以前、練習が終わるとまずプロテインを飲んでいたんですが、その前にやるべきなのは、食事の栄養を吸収できる腸内環境を整えることだと思うんです。
それで学生たちも、練習の後、まずクロレラを摂るようになりました。食事でたんぱく質を十分摂って、それで足りないならプロテインを摂るようにしていますが、その場合も学生たちから「プロテインの吸収が以前より良いと感じる」という声を聞きます。
--アスリートは「この栄養素が不足しがち」「この栄養素が良いらしい」ということで、とかく色々なサプリメントで栄養素を足し算的に摂りがちですが、腸内環境を整えて食事の栄養をしっかり吸収することをまず考えたほうがいいと田山さんは考えるわけですね。
田山 トライアスリートにはサプリメント、特にプロテインに頼っている人が多いようですが、私は現役時代から「そんなにプロテインが必要なのかな?」と感じていて、飲まなかったんです。腸内環境を整えて、しっかり吸収できる状態にしたほうがいいのではないかというのが、その頃から今に至るまで、私の基本的な考えです。クロレラはそういう栄養を吸収する身体のベーシックな機能を支えてくれるものととらえています。
大槻 栄養素を吸収する腸内環境はスポーツ科学の分野でも研究する人が増えていて、これから面白い分野だと思います。
栄養素は水溶性ビタミンなど、たくさん摂っても摂り過ぎた分は尿に溶けて排出されてしまうものもあります。色々なサプリメントで個々の栄養素の量を増やすよりも、色々な種類を摂ることが大切です。
1日に摂るクロレラの量や
タイミングは人それぞれ
--クロレラの量や、摂るタイミングはどうしていますか?
田山 粉末タイプのものを学生たちに一定期間摂らせて試したんですが、人によって適度な量は違うことがわかりました。「疲労がたまったとき多めに摂ると次の日の目覚めが違う」といった声も聞きますから、同じ人でもコンディションによって適量は違うようです。毎日摂るタイミングにも個人差があります。私は朝など空腹時に摂るとスッキリするんですが、学生は練習の後や寝る前に摂る選手が多いです。
大槻 私たちの試験では食後に摂ってもらいますが、特に根拠があるわけではなく、忘れないようにということです。ただ、食事を摂ることで胃腸が活発に動くので、吸収されやすくなるんじゃないかとは思います。
「持久力アップ」を実感
--運動能力に関わる部分で感じる変化はありますか?
田山 長い時間身体を動かすときに変化をすごく感じています。特に持久力がアップしたと感じます。
この夏、うちのトライアスロン競技部では夏バテはないですね。水分もしっかり吸収できています。熱中症や水の摂り過ぎによる水毒が問題になっていますが、こうした症状に陥る人は吸収力不足なのではないでしょうか?
この吸収力はロングのトライアスリートにとっても特に必要ではないかと思います。
クロレラは常にバッグに入れていますし、遠征先にも忘れないように、多めに持っていくようにしています。海外でクロレラを取り上げられたらどうしようと思いますね(笑)。
それだけ自分が必要としていると感じているので、これからもずっと摂り続けたいと考えています。
大槻 今日は色々な情報を得ることができたので、これを今後の研究に生かしていきたいと思います。