COLUMN KONA Challenge

日本が誇るレジェンドトライアスリート小島豊さん<追悼記事>

投稿日:2020年11月26日 更新日:


ルミナ編集部

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日本人トライアスリートが必ず訪れる定番レストラン「Kona Brewing Company」。2012年アイアンマン世界選手権時。左から二番目が小島さん ©KentaOnoguchi

トレーニングに打ち込む姿、レースでの雄姿で、多くのトライアスリートを励ましてくれた小島豊さんが2020年夏、逝去されました。KONAでは3度エイジ優勝している強いアスリートでもありました。『Triathlon Lumina』誌では何度も取材にご協力いただきました。小島さんのご冥福をお祈りするとともに、感謝の気持ちを込めて、稲田弘さんと対談していただいた記事を掲載します。

※2012年10月に行われたアイアンマン・ハワイ世界選手権(通称KONA)後に、レースに出場したおふたりを取材し、『TriatlonLUMINA』2013年1月号(No.15)に対談記事を掲載(レースタイムや年齢などは取材当時のもの)。WEBマガジン用に編集して転載しています。

SUPER IRONMAN TALK
77×80

日本が誇るアイアンマン、小島豊さん(77歳)と稲田弘さん(80歳)。
トライアスロンのこと、トレーニングのこと、年齢のこと、これからのこと……
お互いに尊敬しあうふたりの特別対談。

Photographs by Yoshiyuki Aoyama
Text by LUMINA


Yutaka Kojima
中学から水泳部でスイムが得意。56歳の終わりからトライアスロンを始める。宮古島、佐渡Aタイプでの優勝を経験したのち、66歳でアイアンマンに初挑戦。コナでの成績は66歳から6位、6位、8位、8位、70・71歳欠場、3位、5位、1位、1位、1位。3連覇して臨んだ今年は3位だった。毎年出場しているIM西オーストラリアで来年の権利獲得を狙う。11年前から妻の介護をしながらトレーニングを続けている。日本郵船勤務時代は船長を務めた元船乗り。1935年7月12日生まれ。2012 KONA Result75-79カテゴリー3位、15:02:55(S1:27:13/B7:21:45/R5:55:23)

Hiromu Inada
69歳からトライアスロンをはじめ、4年前からロングディスタンスへ。2011年、初めてアイアンマン・ハワイに出場するが、スイムでリタイア。稲毛インターで山本淳一コーチから指導を受ける。細田雄一、上田藍らエリート選手と一緒にトレーニングを積んでいる(強度・距離は別)。元NHK放送記者で71歳のときに嘱託として現場復帰。英語他ヒンドゥー語(インド)、ウルドゥー語(パキスタン)、ベンガル語(バングラディシュ)を操る。1932年11月19日生まれ。
2012 KONA Result 80-84カテゴリー優勝、15:38:25(S1:49:34/B7:42:08/R5:41:51)80歳以上のコースレコード

10回目と初完走

稲田■今回は、完走するのが最大の目標だったので、特に昨年失敗していますしね。これまでの人生の中でも大きなエポックとなりましたね。最高にうれしいですよ。完走できたことが最大のよろこびです。

小島■今回10回目だけど、年代別で3位だからこのお話(稲田さんとの対談)をいただいたときも「かっこ悪いから嫌だなぁ」と(笑)。レースではランのラスト7㎞くらいから身体が左側に傾いていたみたいでどうやら脱水だったようです。

フィニッシュの花道に入ってからは、後ろにひっくり返りそうだったけど、「YUTAKA」コールがはじまっちゃって。なんとかフィニッシュしました。何が悔しいって、その後すぐに元気になったことですね。稲田さんはトラブルなくいけましたか?

稲田■ランに入ってすぐ脚の付け根あたりがつっちゃって、立っていることもできなくて、もうだめかなと思ったくらい。でも、冷たい水をかけてもらってね、それからなんとか動けてね。

エイドでは立ち止まってますが、初めてロングで最後まで歩かずに完走できました。それがうれしかったですね。小島さんはスイム1時間27分ですよね? 信じられない速さ! 僕もそれくらい速く泳げたらなぁ。どんなトレーニングをしているのですか?

小島■トレーニングというよりも主に身体をほぐすために泳いでますね。マッサージでもいいんですけどね、待合室が年寄だらけで、ま、僕も年寄ですけどね(笑)。待ち時間がもったいないから、1日の疲れをほぐせばいいや、と。

夜、家内を寝かしたら道具を背負ってプールまで走って行って、泳いでまた走って帰ってきますね。ほぐす以外はスカーリングとフィストスイム。

稲田■すごいな、僕はスカーリングが一番嫌なんだよな。水泳はね60歳から始めて、66歳のときにフリーでベストを出しました。50m32秒25。でも70歳になったときに、タイムが出なくて、あ〜体力が落ちたな、と。

小島■そうそう! 70過ぎたら、ぜ〜ったい遅くなりますよ。

稲田■今なんか全然だめですよ。タイムトライアルしたら48秒くらいかかる。遅くて嫌になっちゃうよね。

憧れの人と噂の人

稲田■僕は小島さんのことを昔からよく知ってますよ。トライアスロン雑誌にときどき出ていたし。僕にとっては、憧れの人だったので。スゲー人がいるもんだなって。先輩というよりも神様みたいな人です。ハワイで初めてお会いしてお話するのもすごく緊張したしね。そしたらとても優しくて気さくな方だったのでうれしくなりましたね。

小島■僕は稲田さんのことを「ショート上がりの速い選手が来たぞ」と思ってましたね。得意種目のスイムでは負けたくないって気持ちもありました(笑)。やはりショートの人はスピードがありますからね。僕、ショートは苦しいからダメなんです。

稲田■そう、ショートは苦しい!どちらかと言えば、ロングよりもショートのほうが苦しいでしょう。

小島■こっち(ロング)はマイペースで行くしかないですからね。

稲田■長い間やるから、その間いろんなことを考えながらできる。気持ちの上でも楽になりますね。

小島■ショートはやっぱり体力勝負ですからね。脚が短かったり、体力がなかったら、絶対勝てない。ロングはある程度精神力や持久力が大事になる。だから面白いんですよね。

稲田■ところで、大会の前日は眠れますか?

小島■はい、ぐっすり眠れますね。

2011年アイアンマン・ハワイチャンピオンシップでエイジ優勝の表彰式に臨む小島さん。2009、2010、2011年と3連覇した ©JeroHonda

稲田■僕はね、だいたい「大会」となると、全然眠れないんですよ。だから、この前のハワイも行きの飛行機で全く眠れず、到着した日もバイクの試走なんかしたから眠れるかなと思ったら、その夜も一睡もできなかったんですよ。結果的に僕は2日間全く寝ていなかったんですよね。

小島■うわ〜考えられない!

稲田■レース前日の朝、山本淳一コーチが試泳に付き合ってくれるっていうんで喜んでいたんです。でも……僕は寝過ごしちゃったんですよ。もうね、真っ青になっちゃってね。でも眠れて良かったですね、って励ましてくれて。案の定レース前日の夜は眠れなかったけど、その前に寝ているからいいかな、と。

小島■真面目なんですよ。よく眠れるのは僕みたいに鈍感なヤツ(笑)。6年前かな? 初めてバッセルトン(アイアンマン西オーストラリア)に出たときに、ゴーグルを間違えて預けちゃって、3800mゴーグルなしで泳いで、ちゃんと完走しましたよ。「なんとかならぁ死にゃしない」っていうのが僕の口癖でね。20年やっててこれなんだから笑っちゃう。

稲田■うわ〜そうか、ゴーグルがなくて平気で泳いじゃうっていうのがね、そういう精神がすごい。そっか、そういう失敗を皆さんもっているんだね。僕だけじゃないんだ!

小島■もってますよ〜たくさんあります。それを言うか言わないか(笑)。僕は船に乗っていたからね。天気予報なんて当てにならない。そういう場合に瞬間的に行動を決める。今の家内の介護もそうですが、大変なことがあったときに、まずどうすれば一番いいか、っていうのを瞬時に考えるんですよね。能天気だから失敗もしちゃうけれどこれで77年間生きて来たら、もう直りようがないです(笑)。

フィニッシュまであと数メートル、脱水のため身体が左傾している。現地でも人気者の小島さんには「YUTAKA」コールが浴びせられる。小島さんが花道に入ってくると地響きのような歓声が辺りを包んだ (小島さん提供写真)

パワーの源はやっぱり食事

稲田■ずっと思っていたんですけど、小島さんはね、すごく若く見えるんですよね。肌の色つやが違う。いわゆる年寄の肌じゃないんですよ。

小島■食いたい物、食いたいだけ食べてます(笑)。家内の栄養士さんにご主人も油断しちゃだめだ、って言われるんですよね。でもね、「僕は終戦後の食い物がない貧しい時代で本当に苦労したから、長生きするために食いたい物を控えることはしない!」って言ったんです。

食いたいもの食いたいだけ食って、良かった〜幸せだったなと思って御棺箱に入りたいんですよ(笑)。

稲田■分かります。僕もそうですよ。バイクライドでコンビニ休憩するときに、僕はかつ丼とか弁当を食べる。そしたら周りの連中はびっくりしますよね。「そうか稲田さんのスタミナ源はこれなんだ!」って。

小島■宮古島でゴール後、みんなは水分を摂るけど僕はソーキそばを4杯……。

稲田■4杯!? それはまたスゲー!

小島■もう、腹減って腹減って(笑)。

昨年(2011年)は乗れなかったバイクに乗ることができた稲田さん。途中コースミスをしたかもしれないという不安があったそうだが、無事に戻ってきた ©KentaOnoguchi

トライアスロン=人生の目標

稲田■目下の目標(完走)を達成したから、あとは最高齢完走者を目指そうと思っています。今年で言えばカテゴリー6人中5人は僕より年上。そこで、現実的なことは、誰が早くくたばっちゃうかっていう競争だと僕は思っているんですよ(笑)。

小島■サバイバルゲーム(笑)。

稲田■そう、この歳になっちゃうと本当のサバイバルですよね(笑)。やっぱり80歳越えてくると、今後のことは分かりませんから。

幸い、今の調子なら来年も出られるかなという気はしていますけど。今は82歳の人が最高齢なんですが4人もいるんですよ。僕なんてその人たちから見れば、まだ若造です。

小島■僕はとにかく原点からの見直しです。ランはそれなりに自信があるし、速くはないけれど走り切れる脚を作ってきたという自負はありましたから、3位は悔しい。来年はチャンピオンになりたいです。トライアスロンって僕にとっては人生そのものなので。

稲田■それは僕も全く同じです。生活そのものです。もう面白くて楽しくてしょうがないっていう感じ。でも小島さんの素晴らしいところはね、奥さんの介護をしながらやっているっていうところですよね。

小島■逆にトライアスロンやってなかったら、家内には申し訳ないけれど、バカらしくて介護なんてやっていられっかって思いますよね。確かに練習ができないって思うと滅入っちゃうけれども、介護のおかげでケガなく長持ちしているんだって思えばいいんだな、と思ってね。勝つか負けるかは時の運ですからね。

トライアスロンができていればいいやって。だから自分の健康には絶対に気を付けていますね。

稲田■僕は小島さんに追いつきたいと思っているし、いずれは追い越したいとも思っています。だけど本当に、今の段階では到底かなわない。同じカテゴリーにはまだ何年かあるから安心してますけど(笑)。

小島■稲田さんが現れてこれは自分にとって良い先輩ができたな、とそう思いましたね。お互いに、頑張って、とにかく一緒に長く楽しみたいな、と思っています。

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