SPEED CONCEPT SLR
トレック史上最速にして
快適性も進化した注目作
文/大塚修孝(Triathlon GERONIMO)
トライアスロンバイク・ブランドとしての「トレック」
TREK(トレック)は1976年創業のアメリカン総合ブランドで、トライアスリート、サイクリストなら誰もが知るビッグメーカーだ。マテリアルからエアロダイナミクスまで世界最高峰のバイクをリリースしている。
カーボンロードのパイオニアでもあり、90年代からトライアスロンシーンでの使用率は高い。90年後半には、今で言う異形の「Y Foil(ワイフォイル)」、2000年に入り26インチホイールの「Hilo(ヒロ)」をリリース、前後ホイール異径サイズの「ファニー」までテストし、トレンドを押さえた開発をしている。
その後、2002年のフルカーボンTTバイク時代が始まり、トライアスロンシリーズの「Equinox(エキノクス)」など、まだまだ安定しないトライアスロントレンドの中で試行錯誤を繰り返し、その時代のベストバイクを作ってきた。
KONAサブ10アスリート使用率No1のスピードコンセプト
世界のトライアスリートが最も注目するモノサシ、KONA(アイアンマン世界選手権)。前回2019年大会でのトレックバイクの使用率は第2位(9年連続)で、常に上位をキープしている。
特筆すべきは、「速い選手に使用される傾向が強い」という結果が出ていることだろう。
アイアンマンディスタンスのレースで10時間を切る「SUB10」は、エイジグルーパーにとって極めてステイタスの高い目標となっているが、SUB10選手が使用していたバイクをモデル別に調べて見ると「Speedconcept(スピードコンセプト)」が第1位だったのだ。
使用台数(全体シェア)では2位だが、その中身を調べるとスピードコンセプトの本当の凄さが見えてくる。次回のアイアンマン世界選手権での結果が最も気になる一台だ。
THE ALL NEW “SPEED CONCEPT SLR”
満を持して11月19日にリリースされたスピードコンセプト。これほどトライアスリートに待ち望まれていたバイクはないだろう。
前述の通り、常にトライアスロンの中心でバイクをリリースしてきたが、このスピードコンセプトは、トレック・トライアスロンバイクの集大成とも言える完成度となっている。
トライアスロンバイクの開発において、各社それぞれの特徴を出しているが、今回の新型は、まさに「トレックらしさ」を感じる難しい課題をクリアしている。
2009年KONAデビューとなった第1世代の同モデルは、KVFと言う、それまで一般的だった涙滴状断面のエアロフレームとは一線を画したフレーム形状に注目が集まった。
その後4年が経ち、第2世代は2013年KONAデビュー。より一層のエアロダイナミクスとともにストレージ、ユーザビリティを高めた。
そして、8年後の今年(2021年)、新型スピードコンセプトは9月のアイアンマン70.3世界選手権などでの使用が確認されている。
新型は、各部のアップデートは当然ながら、トレックの専売特許とも言える「快適性」を高めることに成功している。
トレックが2015年のMadone(マドン)の開発において、快適性の向上を狙って注力して出来たのが「Iso Speed」(振動を吸収するエラストマーを備えた機構)だ。
その後、他のモデルにも水平展開され、快適性を重んじるトレックのイメージが確立されていった。そのレベルは「あると良い」ではなく、「無ければダメだ」という強いものだった。
特にエアロ形状かつ、シートアングルの立っているトライアスロンバイクでの快適性は難しかった。
エアロダイナミクスによる速さは、もちろん必要だが、快適性が高まることで、ペースが維持しやすくなれば、アベレージスピードは高くなる可能性が大きい。あくまでも「競技」の範疇内での快適性ではあるが、長時間にわたるトライアスロンのバイクパートにおいては、重要なキーワードとなることは間違いない。
《数量限定モデル》
Speed Concept SLR 7:1,207,800円(税込)
価格: 1,207,800円(税込)
カラー: Voodoo Carbon Smoke/Gross Black
サイズ: S, M, L
コンポ: Shimano Ultegra R8150
ホイール: Bontrager Aeolus Pro 51
《プロジェクトワン》
スタート価格:1,120,900円(税込)~
フレームセット:638,000円(税込)~
最新スピードコンセプト
モデル一新のポイント
まず外観上だが「ディスクブレーキ」であることが誰の目にも飛び込んでくる一番のポイントだろう。フレームデザインとしては大きく分けると、その「シャープさ」という点で変わっていない。
ただ、前作と比べるとトップチューブ前方を含め、フロント周りがボリューミーになっていることがわかる。
シートステーが下がり、水平部分があるのは他社でも採用されているデザイン。ハンドル周りは、やはりトレンドとなるフラットステムでエアロダイナミクスを高める一方で、ベースバーはアップライズを基本としているところも「トライアスロン仕様」の証と言えるだろう。
ダウンチューブ上部はフロントホイールに沿った形状となり、下部はボリュームアップしている。その上には一体化された大型のエアロボトルが配置され、エアロダイナミクスを高めている。
また、わずかにトップがスローピングといえるほどではないが、下がっている。
そして、唯一変わっていないのが、サドル下の「三角スペース」だ。これこそが新型第3世代として、重要な役割を果たしている。
ちなみにシートステーにペイントされている「00:00:00」は、タイムを表現するシンボルとして、「全てのライダーが自己ベストを出せるように」という意を込めて入っている。
>>Frame
トレック最強素材「OCLV800」を投入
トレックの場合、バイクというカタチになる以前に、「素材」から多くの話題が提供される。
フレーム素材は、トレックフラッグシップとなる「OCLV800」を使用。このカーボン素材は、現行の新型マドンのエアロ形状や、Emonda(エモンダ)のさらなる軽量性のために作られたトレックの過去最強素材と言える。
スピードコンセプトも同様だが、エアロ形状のフレームは、材料が多く使用されるため、重量増になる傾向があるため、さらなる軽量化対策として「強度」を維持し、開発されている。
その他、ブレーキはもちろんディスク仕様、BBはT47を採用、タイヤの最大クリアランスは、フロント25C、リア28Cとなっている。
>>Aero dynamics
トレック史上、最速TRIバイク、誕生。
トレック史上、風洞実験に裏付けられた「最速バイク」の誕生となった。
今回トレックは、バイク単体ではなく、ライダーが乗っている現実に近い状態でのエアロ効果の最適化に一番注力した。
やはり、空気抵抗の多くはライダーとなるため、可能な限り、リアルな状況が必要と考えている。
特に意識された部分は、主にコックピット周り。中でもアームパッドの後部が腕との気流をどのよう設計したら最適なのかに注力したという。
また、2カ所設えられたボトルの位置(後述)も、ライダーが余計な動きをせずに補給できるようにアクセスしやすい個所に配置し、空力を崩さないようにしている。
また、ディスクブレーキ仕様のRSLホイールも前作と比べると、より空力性が向上。
結果、16Wセーブすることに成功し、KONAのコースで前作より約6分速くなる数値を導き出している。
>>Comfort
トレック独自の振動吸収テクノロジー「IsoSpeed」を搭載
トレックは、素材などではなく、具体的なギミックにより「快適性」を向上させている。このIsoSpeedは、これまでも多くのバイクに採用されてきた。ただ、ロードバイクと大きく異なる形状をとるスピードコンセプトのフレームにどのように収めるかは、難しい課題だった。
この仕組みは直接可動するようになっているが、前乗りとなるトライアスロンバイクの場合、可動する支点(ピボット)を前方に移し、その効果が最大に発揮されることを狙った。
縦方向のしなりが40%向上したことで、最大40%快適性が上がったと発表している。
ツール・ド・フランスで使用されていたTTバイクは、今回市販リリースされた新型スピードコンセプトとベースこそ同じだが、あくまでも短距離で競うTT(タイムトライアル)仕様のため軽量化を意識して、このシステムとストレージボックスは搭載されていなかった。
外観上はほぼ同様に見えるが、このシステムこそが、「トライアスロンバイク」としての位置付けを明確にしている。
>>Storage & Fuel
ストレージ&大型ボトルは各2カ所に集約
前作で様々な個所にストレージ&フューエルを設けたが、新型ではそれらが集約され4カ所に。ストレージ2カ所はトップチューブ内とダウンチューブ内、フューエル(給水システム)2カ所は大型ボトルという形をとっている。
トップチューブのストレージは、フレーム内にフラットに収まり、取り外しが可能で、洗うことができ、食洗機対応にもなっている。ジェルであれば8個の容量となっている。
ダウンチューブのストレージは、メンテナンスキットを収めるスペースで、工具、CO2ボンベ、チューブ、タイヤレバーなどがコンパクトに収まる。
BB上の大型ボトル(バイクに付属)は、他社でも採用されているエアロボトルの形をとっており、容量は700ml。エアロダイナミクス向上を狙い「フレームの一部」となっている。
もうひとつは、ハンドル上の「BTAボトル」で別売り。昨今フューエルシステムが再びフレームに内蔵化される兆しがある中、トレックでは外付け対応としているため、それぞれ専用ボトルを用意することでエアロダイナミクスを高めている。また、ユーザビリティの面では重要な、補充のしやすさも押さえている。
そして、BB上のストレージやボトルは「低重心化対策」にもつながっているだろう。
>>Fit & Usability
DHポジションを究めやすく
遠征時にも扱いやすい
DHバーのフィット性が高い。
DHポジションで走行することは簡単だが、効率の良いベストポジションを導き出すためには、トレーニングを重ねることはもちろん、フィット範囲の広い(調整幅の広い)機材が必要になる。
サドル同様にトップメーカーのものでもジャストフィットするとは限らないが、まずは調整パーツが多くなければ始まらない。
この新型スピードコンセプトでは、DHバー・エクステンション先端の握りとアームレストの位置関係をキープしたまま前後調整ができる。これは遠征時のパッキングでも扱いやすそうだが、日々の「ポジション調整」の利便性に大きくつながっている。
DHバーの調整は大きく2点ある。ひとつは握りとパッドの間隔、つまり前腕の長さであり、もうひとつは、身体と前腕の位置関係がある。
この両者の調整が必要だが、さらに前オフセット、後オフセットのアームレストや7度アップのハイハンズ用スペーサーなど、様々な調整パーツが用意されている。
そして、現実的に使用頻度の高いベースバーに3種類のライズが用意されているのも使いやすいポイントだろう。
今後の展開への期待
トライアスロンバイクは究極の「開発力」を競うバイクだけに、中途半端なものは作れない。ただ一方で、下位グレードへの期待も少なくない。
ロードバイクのようにエイジグルーパーの中でも3~5段階程度、取り組み度合いが分かれるため、新型スピードコンセプトも、少なくとも3グレードあれば理想的と言えるだろう。
■著者プロフィール
大塚修孝(おおつか・のぶたか)
トライアスロン「モノ」ジャーナリスト。96年から四半世紀にわたり取材を続けているKONA(アイアンマン世界選手権)をはじめ、内外のレースで出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集・分析には定評がある。