KONAシェアTOP10ブランド最新モデル解説:SCOTT PLASMA 6
文/大塚修孝(Triathlon GERONIMO)
バイクブランドとしての「スコット」
スコットは、1958年スキーのストックで創業しているスイスブランドだ。バイク(自転車)市場には1986年から参入し、ロードからMTBまでリリースする30余年の老舗メーカーで、一流の証とも言えるロードレースの世界最高峰ステージレース「ツール・ド・フランス」も参戦している。
早くから軽量カーボンフレームに注力し、伝説とも言える軽量カーボンロードの「CR1(当時の名称)」などは、ヒルクライマーの定番となっていった。
素材を含めた軽量性、エアロダイナミクスなど、その開発力には定評があり、また、エアロロードをいち早くリリースするなど、トレンドへの対応力も高いブランドだ。
元祖DHバーを生み出した、トライアスロンブランドとしての出自
トライアスロンの世界では、スコットと言えば、なんと言ってもスキーのダウンヒル(DH)の滑降姿勢から着想を得た「DHバー」を生み出した元祖のメーカーであり、「トライアスロン」への想いも強いメーカーというイメージが定着している。
その歴史は古く、ツール・ド・フランスをアメリカ人として初制覇したグレッグ・レモンが1989年にDHバーを使用し、2度目の制覇に繋がっていることが、トライアスロン黎明期にも大きな話題となった。
残念ながら現在は、スコットブランドのDHバーは造られていないが、アイアンマンのPLASMA、オリンピックディスタンスのFOILなど、トライアスロンシーンにおいても人気ブランドとなっている。
アイアンマン・ウィナーズバイク
2014年のKONA(アイアンマン世界選手権)では、セバスチャン・キーンル(ドイツ)が前世代モデル「PLASMA5」を使用し、世界王者の座を手にしている。
強風が吹き荒れ、真のバイクの強者を決めるレースにもなったその年のKONAで、キーンルは圧倒的な強さを見せた。
このキーンルの勝利が記憶に新しいところだが、トライアスロンバイク・ブランドとしてのスコットの伝説は、2008年に始まっていたと思う。
それまで2勝(2004、2006年)していたノーマン・スタッドラー(ドイツ)が「PLASMA2」を使用したことに端を発しているのではないかと。
アイアンマンでは、いつもスコット勢のバイクラップが速い。逆に言えば、バイクの強い選手をサポートする傾向がある。そんなエリートバイクがスコットだ。
KONAでの使用率は、常にTOP10圏内
現在、トライアスロンでは、KONA(アイアンマン世界選手権)における使用率が、トライアスロンとしてのトップブランドであるかを決めるひとつの指標となっているが、スコットはもちろんTOP10のレギュラーブランドで、前述の通り、エリートバイクとしての存在感の大きさは揺るぎないものがある。直近(2019年)のKONAでは107台・9位(GERONIMO COUNT※より。以下同)の使用率となっている。
ここ10年のKONAでのバイクシェア推移を見ると、TOP 10ブランドに集約される傾向が顕著となっていて、全出場バイクの中でTOP 10ブランドが占めるシェアは2011年で71.2%だったものが、2019年には77.7%まで高まっている。
スコットは、その選ばれしトップブランドの常連と言えるだろう。そして、もうひとつの「特徴」はSUB10(アイアンマンで10時間を切るエリート)選手の使用率が高い点で、2018年はモデル別で5位という使用率の高さを誇る。
※GERONIMO COUNT=大塚さん自身が手がけるKONA現地でのバイク全台調査
トライアスロンバイク「プラズマ」とは?
「プラズマ」はスコットのカーボン・トライアスロンシリーズだ。アルミフレーム時代は「ワイメア」と言うトライアスロンモデルが存在したが、やはりトライアスロンバイク・ブランドとしての地位を確立したのは、この「プラズマ」からとなるだろう。
アイアンマンでは第2世代(プラズマ2)が前出スタッドラーの使用により、脚光を浴びることになった。プラズマ3では、シマノ、東レ、プロファイルが開発に関わっている。プラズマ4は、プラズマ5の下位モデルという位置付けにあるので、3が5の流れを汲んでいることになる。
そして、2021年のニューモデルとして発表されたのが「プラズマ6」で、第6世代にあたる。
プラズマ6>>「トライアスロン専用」も鮮明に、6年ぶりの進化
プラズマ6=通称「P6」。前世代のプラズマ5は、2014年のKONAでデビューウィンを飾ったが、それから6年の月日が経った。
すでにロードバイクはディスクブレーキ化への「切替」がほぼ完了していた中で、待ち望まれていたバイクの1台がこのプラズマ6で、その開発に4年かけている。
もちろん開発に時間をかければ良いと言うわけではないが、ディスクブレーキ化とともに、そのメリット、デメリットをいかにまとめるかは簡単ではなくなってきている。
昨今ユーザビリティ(遠征時の輸送も含めたトライアスロンでの使い勝手の良さ)も重要なキーワードとなり、単なる速いバイクでは許されない。
全てにおいて完璧に仕上げることは難しいが、「特徴づけ」とともにメーカーの技術力とカラーをしっかりとアピールしたい。
今回のプラズマ6の最大のアピールポイントは、「トライアスロン専用」であるという点だ。UCI準拠のT Tバイクと兼用せず、トライアスロンにターゲットを絞った本気度の高いバイクを造り上げた。
以下、トライアスリート目線で注目すべきプラズマ6のポイントを解説しよう。
■Aerodynamic
空力性能を高める、特徴的なダウンチューブ
特徴的なフロント周りに高いエアロダイナミクスを予感させる。極太のフロントフォーク、ボリュームのあるヘッド周り、そして、ホイールとのクリアランスが大きく取られたダウンチューブが目を引く。
そのダウンチューブの位置は、今までのセオリーを覆し、エアロダイナミクスを高めている。
従来は、リアホイールのようにタイヤを覆うカタチを同社もとっていたが、リアと異なり、ハンドルの動きにより、逆に抵抗が増すため、現実的な動きを考慮して、今の位置を割り出している。
そして、リアホイールもよりフレームに密着させるため、前後にアジャストできる仕様に。タイヤの太さに影響されず、限りなく理想的な位置を求めることができる。
■Fuel&Storage
ストレージをフロントに、という新提案
スコットは、前世代のプラズマからフューエル(給水システム)にはこだわりをもっていたが、プラズマ6では新しい提案として、フューエルとストレージの位置を(従来のプラズマとは)逆にセットしている。
容積の必要になるフューエルをフレームに内蔵、ストレージをフロントに配置。これによりフロントがコンパクトにまとまることはもちろん、走行中に補給食を取りやすくなっているのだ。
そして、フレーム内蔵のフューエルシステムは、スペシャライズドSHIV以来の思い切った「トライアスロン専用」の発想と言える。サイズにより異なるが、600ml前後の容量があるため、給水用として使用するのであれば十分だろう。
その他ストレージは、サドル下(シートチューブの後部)およびBB上に配置、もちろん、サドル後にはボトルケージが装備できる。
■Adjustability
トレンドを押さえ、データに裏付けられた調整の自由度
完成車のDHバーはトータル設計され、デザインなどきれいに収まっている。ただ、実際の使い勝手は必ずしも良いとは言えないものが多い中、プラズマ6は、その点、よく研究されている。
調整の自由度が高く、トレンドとなる「ハイハンズ」にも2.5mm刻みで対応し、DHバー高、アームパッド前後、左右、ベースバーなどのフィット性を高めることができる。キーンルもセッティングしているベースバーのアップライトポジションなども極めて有効的だ。完成車の標準仕様としてはトレンドを押さえた申し分ない造りと言える。また、サドルの前後調整範囲も従来通り広い。
これら各ポイントの調整幅の根拠となるデータは、Geobiomized社とのコラボで導き出されたものだ。
今後のプラズマ・シリーズ
そして、元祖DHバーメーカーSCOTTに期待したいこと
まずは、サイズ設定が気になってしまう。当初から変わらないジオメトリーの考え方については、アジア人への対応を考慮して欲しいところだ。個人差はあるが、胴長短足傾向のアジア人へ、ベストフィットする可能性は高いとは言えないからだ。
次にグレードのバリエーション充実が挙げられるだろう。競技レベルから予算まで、エイジユーザーのニーズは様々だ。よりトライアスロンシーンでの使用率を高めるためにも幅広い選手層への対応に期待がかかっている。
そして、元祖DHバーメーカーとして、再び、エアロバーの開発を手がけて欲しい。
既成はもちろんだが、よりフィット性を高められる「カスタムオーダー」など、細かい対応にはなるが、必ずニーズはある。
現在、トレンドとなりつつあるハイハンズはトップ選手をはじめとするユーザーの「使い方」に依存しており、メーカーの「製品」としての開発・展開は遅れ、また完成度も低い。逆に可能性のあるパーツでもあるため、スコットをはじめとする大手メーカーによる対応が待ち望まれている。
>>スコット・プラズマ6(ブランド公式サイト)
https://www.scott-japan.com/publics/index/988/
■著者プロフィール
大塚修孝(おおつか・のぶたか)
本誌連載などでおなじみのトライ アスロン「モノ」ジャーナリスト。トライアスロンに関わり29 年。特に、アイアンマン世界選手権は、96年から四半世紀にわたり取材を続けているライフワークとなっている。レース出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集力と緻密なデータ分析には定評がある。
Triathlon GERONIMO
www.triathlon-geronimo.com