COLUMN

M・ケスラーが著書『LIFE OF A TRIATHLETE』で語っていること。

投稿日:


山村 勇騎

text by:

著書『LIFE OF A TRIATHLETE』を手に、愛車VENTUMと

VENTUMサポートライダー:メレディス・ケスラー(アメリカ)
Special Interview #03/03


ただのトレーニング本ではない著書『LIFE OF A TRIATHLETE』

Q.最近『LIFE OF A TRIATHLETE』という本をご夫婦で共著されたそうですが、どのような内容が書かれているのでしょうか?

今までのトライアスロンについて書かれた本は、個人の成功体験に基づいて書かれたトレーニング本ばかりでした。

私たちの本では、エイジグルーパーとして、またプロのトライアスリートとして生活していくうえで試行錯誤し、苦労したことについて綴っています。自分たちの成功も失敗も、すべて読者たちに伝えたかったのです。

トライアスリートに必要な情報は、トレーニングに関するノウハウや、コーチから教わることだけではありません。私たちの普段の生活の中で起こりうる些細なことが、レースでの失敗につながることも、たくさんあるんです。

このような豆知識が何らかの形で読者のレースに役立てば、本望ですね。

Q.日本語版の出版予定はありますか?
100%自費出版なので、他言語の翻訳までは正直手が回っていません。

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Q.日本には今まで来たことがありますか?

残念ながらまだいったことはありませんが、日本は私の「絶対に行きたい所リスト」にある国ですね。あの素晴らしい国でレースをするのはもちろんのこと、そのあとに観光も楽しみたいです。

トライアスロンの良いところは世界中の素晴らしい国々で開催されているため、その地で素晴らしい体験ができることです。日本もその例に漏れず良いところだと聞いています。もし行くことになったら連絡しますので、いろんなところを案内してくださいね!

Q.なにか読者のモチベーションを喚起するような言葉をいただけますか?
『LIFE OF A TRIATHLETE』の本の中にも書いてありますが、トライアスリートにとって役立つたくさんの“秘密”をいくつか。

私の好きなことわざに――

“成功してもおごることなかれ、失敗しても心折れることなかれ”

――という言葉があります。

トライアスロンを続けるというのは長い旅のようなもの。そこにはジェットコースターのようなアップダウンが常にあります。絵に描いたようなピークが来ることもあれば、救いようのないドン底もあるのです。

ピークにいるときはかけがえのない良い経験ができるけど、谷底にいるときにはとてつもなく絶望的になるものなのです。

成功しても安易にそれを当たり前と思わないこと。それは多くの失敗が糧となった結果であり、それら失敗の集積が成功につながっただけのことなのです。

“大海原の潮の流れはままならずとも、自分の船なら操縦できる”というように、私は失敗から価値観の評価基準を学びました。スポーツというものは絶え間ない進化、学習、微調整、そしてチェックの繰り返しだととらえています。

「レース」は強烈な瞬間に満ちたものです。いままで積み上げてきた努力やスタミナ、覇気、度胸、そしてもちろん失敗の集大成と言えるのです。失敗も敗北も経験しなくて進歩できますか? いつも心にとどめておいてほしい言葉、それは“結果より大事なことは、そこに至る課程である”ということです。

©VENTUM ASIA

 

Q.大学へはフィールドホッケーの奨学生として入ったそうですが、ホッケーでプロになろうとは思いませんでしたか?
それに関してはあんまり考えていなかったです。何かのプロ選手にはなりたかったことは確かですが、フィールドホッケー以外のものと考えてました。

Q.フィールドホッケーでの経験が、トライアスロンに役立つことは?
どんなスポーツでも、その経験はトライアスロンには有利になると思いますが、必ずしも必要なものとも思いません。小さい頃に水泳を習い始めたことは、その後の技術向上には大いに役立ったことは間違いありません。

幼少期からチームスポーツに親しんできたことも、大人になってからトライアスロンのような厳しいトレーニング、日常生活における精進の基礎を築いてくれたと信じています。

Q.ご主人は釣りが趣味とおっしゃってましたね。あなた自身には何か趣味はありますか?
私も主人も食べることが好きです。ふたりでワインを飲みながら食事をとることが大好きなんです。食は人生においての楽しみでもあります。おいしい食べ物をワインで流し込むのは至上の喜びです。もちろん節度をもった量でですよ。

それから、最近はよく自分でも料理をするようになりました。ヘルシーなレシピで、いろいろな味付けで。もっと手早く、クオリティの高い料理を作れるようになりたいんですけれどね。料理は決して得意とは言えないんですが、だからこそ多くのことをキッチンで学べる。それを今は楽しんでいます。

職業としてのトライアスロンを離れた「趣味」といえるのは、気のおけない友人たちとつるんでいることです。友情を温めることはとても大事。70歳になっても一緒にいてくれる友がいるということはありがたいことで、彼らなくして私の職業は成り立たないですね。

 

“コナだけは、ほかのレースとは違う。いつかあの魔物を退治します”

Q.コナのレースでは、いつも落車や他のアクシデントなどで残念ながら良い結果が出ていませんね。これらの教訓から何か学んだものがありますか?
コナに限らずレースごとに何かを学んでいます。良いことも悪いことも知識として積み重ね、次へと向かうのです。今までのコナの経験も、このようにとらえています。

しかしながらコナのレースだけは他とは勝手が違うんです。このレースは大きなジグソーパズルのようなもので、たったひとつのピースが欠けただけで総崩れしてしまい、ひどい結果になってしまうのです。

オールスターが出そろうコナの攻略方法はいろいろ考えられるのですが、間違いなく言えることは“運”が必要だということ。特にプロレベルではね。どんなに完璧に準備していても“持って”いなければ、あの場では何か不可避的なことが起きてしまうのです。信じてください、本当なんですよ。いまだにつかみどころのないレースですが、挑戦し続けていつの日かこの魔物を退治しますよ。

Q.エイジグルーパーからプロへ、かなりの時間をかけて転向したとおっしゃってましたが、トレーニング量の変化はありましたか?
はい。エイジからプロになると当然練習量は増えます。まず自分に言い聞かせたことはプロ意識を植え付けることでした。自分はもうプロなんだから、トレーニングというものは状況にかかわらず、やる義務がある。やって当然という方向に引き込むようにしていました。

プロとして十分活動できる程度まで、ビジネス面(資金面)での基礎を構築できたら、同じ1日という時間の中で、今までより多くの時間をトレーニングに割けるようになります。

そうはいっても私はトレーニングを効率的にしかしません。たとえば5時間のロングライドを週に3度やったとか、8時間ぶっ続けのトレーニングができたとかいうことは、私に言わせればあまり効率的ではないということです。このようなことを、やったことがないとは言いませんが、少なくとも私には効果がないものです。

エイジグルーパーからフルタイムのプロ選手となったときに、私が最も多くの時間を割いたもの、それは「リカバリー」です。

このリカバリーというのは適切な栄養摂取、水分補給とともに行うものです。ただ何もしないで休むということではありません。

もしあなたがトップエイジグルーパーでフルタイムで働いているなら、たくさんのトレーニングをしていることでしょう。でもリカバリーや補強トレーニングなどのやりくりには苦労しているはずです。時は金なりです。

コナにエイジグルーパーとして出場した最後の年(2009年)のスイムスタート ©VENTUM ASIA

 

Q.アイアンマン・カナダで優勝した時、どのようなスケジュールでほかの仕事をこなしていたのですか?

大変良い質問ね。これは若いトライアスリートたちに「プロになるには、どうしたらいいか?」と聞かれるときにいつも伝えていることです。すべての人に当てはまるかどうかはわかりませんよ。

運にも恵まれアイアンマン・カナダで優勝できた翌日、月曜の朝8時30分には、メインの仕事であるRBCキャピタルマーケットのオフィスのデスクについてました。仕事着の下にコンプレッションタイツをはいて。

その日は事務所で10時間働いた後、夜にはサイクリングクラスへと急いで行き、1時間30分のレッスンを指導しました。それから家に帰って食事をし、当時コーチをしていた12人の選手たちのトレーニングメニューを作り、ようやくその日が終わりました。

だからあの24~48時間の間に4つの仕事をこなしたことになります。それらすべてがプロ選手として活動するための基礎を維持するためでした。

たまたまひとつのレースでスイムがすごく速かったとか、バイクが速かったとかだけでプロになれるということにはならないのです。誰もあなたのスポンサーになろうとしてはくれないのです。

就職時に書く履歴書のように時間をかけて自分の実績履歴書をつくり上げるのは時間がかかるものなのです。

2016年のIMNZ   ©Kenta Onoguchi

 

Q.プロになりたい選手たち(日本やその他の国々も含む)には、トレーニング環境が整っていて、プロ選手が多くいる国へ移住することを勧めますか?

私は“出げいこ”トレーニングセッションに参加することがいいと信じているの。 自分より速い選手がいるところでトレーニングすることです。どうしたらもっとハードにプッシュできるのか? どうしたらより速く走れるのか? それを実際に成し遂げている選手たちと一緒にトレーニングすることで、それらの答えを体感できるからです。

しかしながらグループでの練習が性に合わない人たちがいることも事実です。しがらみのない個人での活動のほうがうまくいくという人もいますよね。自身に合った方法が何かを知ったうえで行動することが大切ですね。精神的にも肉体的にも最も健康な状態であることが理想ですから。

ひとりで周りの選手たちをやっつけることができるタイプもいれば、周りから力をもらいながらレースで結果を出せるタイプの人もいることは分かっています。いずれにしても、自身の選手としての成功を真剣に考えているなら、どこにいようが自分を極限まで追い込めるはずです。

そして、トレーニングだけではなく俯瞰的に自分の人生や人間関係などを見つめることが大切です。自分の能力をまだ引き出し切れていないと思ったら、どうしたらそれが実現できるかを考えましょう。自分で変えられることは変え、すぐに行動を起こすべきです。

理想的な環境を作り上げるということはそんなに簡単ではないでしょう。でも、頭を使い、どうしたらその目標にに近づけるかを探し続けましょう。そして良い方法を見つけたら、迷わず進むのです。なんといっても人生は一度きりなのですから。

取材協力/VENTUM ASIA

■プロフィール
Meredith Kessler(メレディス・ケスラー)
アメリカ・オハイオ州出身のアイアンマンのトップコンテンダー。高校時代より陸上やグランドホッケーで活躍し、大学では名門シラキュース大学の特待生となる。大学卒業後にトライアスロンを始め、アイアンマン・アリゾナを連覇(2014・2015年)しているほか、2016年にはVENTUMでの初戦となったニュージーランドでも優勝、5連覇を果たしている。meredithkessler.com

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