写真/小野口健太
フロデノが散り、キーンルが及ばない次世代のチャンプたち
アイアンマン世界選手権(米・ハワイ島コナ/10月14日・土曜日)、59選手エントリーしたプロカテゴリーのレース、男子は2015・2016年と連覇を果たしてきた完璧なる王者ヤン・フロデノと、そのライバルにして前王者セバスチャン・キーンルの両雄(いずれもドイツ)に、昨年彗星のごとく現れ3位に入ったパトリック・ランゲ(ドイツ)、カナダの新鋭ライオネル・サンダースら次世代のスター候補が立ちはだかる、新旧交代を思わせるストーリーとなった。
レースは、フロデノらスイム巧者たちが、条件の安定していたスイムパートからバイク序盤にかけて30人近いリードパックを形成。その4~5分後方からバイクに強いキーンルやサンダース、キャメロン・ワーフ(オーストラリア)、ボリス・ステイン(ドイツ)らが猛追するという展開に。
ランパート単体の持ちタイムではランゲやサンダースに劣るフロデノやキーンルからすれば、バイクレグでいかに逃げ、アドバンテージを得られるかが勝利への鍵となっていたが、トッププロたちの時間帯では、往き帰りとも追い風だったこともあってか、ユーバーバイカーたちは思いのほか順調に先行するパックをとらえ、クイーンKハイウェイの折り返しハヴィでは、早くもサンダースが先頭に。
そこからは、サンダース、ワーフ、キーンルが入れ替わりつつ先頭パックを引くようにして走り、最終盤でやや抜け出したワーフが4時間12分54秒でバイクレグをフィニッシュ。風に恵まれたとはいえ、これは2006年にノーマン・スタドラーが打ち立てたそれを5分以上上回るコースレコードとなった。
しかし、やはり勝負を決めるのはラン。IMのランでは3時間10分超の戦績しかもたないワーフは、1分後に余裕をもってバイクフィニッシュしたサンダースにアッという間にかわされ、優勝争いから脱落。そこからは走力にも定評のあるサンダースが、初勝利に向けた逃げ切りを決めにかかる。
3連覇がかかったフロデノが後方で苦痛に顔をゆがめて歩きはじめ、ランの実力を上げてきているキーンル必死の猛追も届かない。サンダースの初優勝がちらつきはじめたレース終盤。最後にその「新王者」の権利を奪取したのは、もうひとりの次世代エース候補、ランゲだった。
昨年、プロとしてコナ初出場ながら、マーク・アレンが90年代に打ち立てたランコースレコードを破ったランゲは、序盤5分以上あったサンダースとの差を確実に縮め、37㎞を過ぎたところでそのスピードを見せつけるかのように抜き去ると、昨年自身が更新したランコースレコードに迫る2時間39分59秒で走り切り、今度はトータルタイムでクレイグ・アレキサンダーのもつコースレコードを破る8時間01分で、「子どものころから夢見ていた」というコナのタイトルを勝ち取った。
ユーバーバイカーたちにそん色のないバイクでの脚に加え、IMのランを安定して2時間40分台で走れるランゲやサンダースの「強さ」が、コナに新たな時代の訪れを告げた。
プロ男子上位
順位/総合タイム/トップとのタイム差/名前
1 8:01:40 –:– Patrick Lange
2 8:04:07 2:27 Lionel Sanders
3 8:07:11 5:31 David McNamee
4 8:09:59 8:19 Sebastian Kienle
5 8:11:24 9:44 James Cunnama
6 8:13:06 11:27 Terenzo Bozzone
7 8:14:43 13:04 Andy Potts
8 8:18:21 16:42 Patrik Nilsson
9 8:19:26 17:46 Ben Hoffman
10 8:22:24 20:44 Boris Stein
ダニエラ時代の到来を告げる、コンディション不良の末の圧勝。
プロ女子のレースの中心は、誰がどう見ても2015・2016年の連覇に加え、今季も70.3の選手権を危なげない展開で制してコナに臨んだ女王ダニエラ・リフ(スイス)。昨年同様、バイクパートの段階でトップに立ち、コナのレースをふたたび完全制圧するかと思われたが、コンディションが良くなく、スイム、バイクと調子が上がらなかったという女王は、静かな立ち上がり。
スイマー出身で、苦手としていたバイクも強化してきた新星ルーシー・チャーリー(イギリス)に、バイクレグで先行され、約5分の差をキープされる。
しかし、バイク終盤、エンジンのかかってきた絶対王者(女王)が健闘したチャーリーをとらえ、ともにもつれ込むようにT2へ入ると、そこから「ラン勝負」とも表現できないほどに安定した7~10分のリードを築き上げ、ルーシー・チャーリーはこれを倒すというよりも、2位をキープすることに専念せざるを得なかった。
ミリンダ・カーフレーが出産したばかりでコナ戦線を離れている2017年、女王リフのロングスパートのような先行にプレッシャーをかけられるとしたら、出産後復帰を果たしたレイチェル・ジョイス(イギリス)か、昨年3位のヘザー・ジャクソン(アメリカ)か?
しかし、結局、2017年もリフの背後を脅かす敵は現れなかった。
終わってみれば、万全なコンディションとは言えない中、全く危なげのない横綱相撲ふたたび。ダニエラ・リフが3連覇を果たし、ナターシャ・バドマンやクリッシー・ウェリントンを彷彿とさせるような「彼女の時代」の到来を印象付けた。
10分、15分の差をランで覆してしまう、ミリンダ・カーフレーのようなランナーが立ちはだかるか、リフ自身のパフォーマンスに斜陽が差し込まない限り、彼女の時代は続くのか。40年の節目を迎えようとしているコナに君臨する、強い女王に今のところ隙は見当たらない。
プロ女子上位
順位/総合タイム/トップとのタイム差/名前
1 8:50:47 –:– Daniela Ryf
2 8:59:38 8:51 Lucy Charles
3 9:01:38 10:51 Sarah Crowley
4 9:02:29 11:42 Heather Jackson
5 9:04:40 13:53 Kaisa Sali
6 9:16:00 25:14 Susie Cheetham
7 9:19:49 29:02 Carrie Lester
8 9:20:31 29:45 Liz Lyles
9 9:20:58 30:11 Annabel Luxford
10 9:21:08 30:22 Jocelyn McCauley