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Mag-on UNION Vol.4 トレイルランナー 矢田夕子

投稿日:2017年11月11日 更新日:


ルミナ編集部

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©LOTUS corp/Altra Japan

疲労骨折11回。故障に悩まされた競技ランナー時代

トレイルランを本格的に始めて4年目ながらUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)準優勝、青梅高水トレイルラン優勝、野辺山高原100kmウルトラマラソン優勝(いずれも2016年)などの戦績を上げている矢田夕子さん。

そのランナーとしての出自を語るうえで、トラックやロードでハイレベルなスピード勝負を戦ってきた学生・実業団ランナー時代に触れないわけにはいかない。

中学時代から陸上に取り組み強豪校・室蘭大谷高校(現・大谷室蘭高校)を経て、松下通信工業(現・パナソニック)女子陸上競技部へ。エリートランナーとしては、つつがなく王道を歩んできたかに見えるが、実際、その選手生活は故障との闘いだった。

「実業団ランナーとして5年間、パナソニックの陸上部に所属していたんですが、現役時代はほぼ故障(苦笑)。疲労骨折を(高校時代からの合計で)11回やりました。高校のときから少し無理をして走っていたので、女性ホルモンのバランスが崩れていて、すでに故障がちでした。それがずっと尾を引いていた感じです。

(実業団時代の)最初の3年はほとんど走れていませんでしたね。筑波大学の先生に診てもらうようになって、疲労骨折する原因がわかり、ようやく走れるようになったのが4年目。自己新も出て、東日本の実業団駅伝なども走れるようにはなっていたんですけれど、その後にまた心が折れてしまった。身体的に私には負担が大きすぎるのかなと」

やり切った、というよりは「燃え尽きた」に近い形での現役引退。しかし、走ること自体が嫌いになったわけではなく、その実業団時代の経験が、トレイルランニングとの出会い、そして、その後のランナー矢田夕子の生き方、スタイルをつくり上げることになる。

実業団チームを退いた後、ふたたび走り始めるまでには数年間を要した

キツいけれど、みんなで笑いながら山を走る楽しみ

実業団チームを退いた後、パナソニックの陸上部についていたトレーナーの紹介で、鍼灸の学校(神奈川衛生学園)へ進む。故障に悩まされ続けた選手時代の経験を生かすべく、東洋医学から西洋医学までを学んだ3年間は、授業や試験勉強、アルバイトで忙しく、ほとんど走ることはなかった。

ふたたび走り始めたのは、卒業後、整形外科での実務経験を経て、裸足マラソンの日本記録をもつ高岡尚司さんのもとで働き始めたころ。お客さんやスタッフらと一緒に山を走るイベントがきっかけだった。

「何人かで一緒に山の中を走ったときに、『やっぱり仲間と走るのって、楽しいな』と感じて、またやりたいという気持ちが出てきたんです。それまで(の選手時代)はチームがあって、一緒に走る仲間が常にいた。ところが引退してからは、走る仲間がいなかった。今にして思えば、それがランニングそのものから遠ざかった理由のひとつでした」

みんなで走る楽しみ。それに加えて、走るシチュエーションが山の中、トレイルの上だったことがまたさらにその楽しさを増幅させた。

「実業団時代は、さすがに『笑いながら走る』っていう感覚はなかったんですよね。だから、山の中で、キツいけれど、みんなで会話しながら走るということが、すごく新鮮で、楽しかった。じゃあトレイルランをやってみようかと。それからまた本格的に走るようになったんです」

レース中にも出会いがある。トレランの新鮮な魅力

ともに山を走った仲間に勧められて、勢いで申し込んだというハセツネ(長谷川恒男カップ日本山岳耐久レース)が、矢田さんにとってトレイルランのデビューレースに。そのハセツネで6位に入り、競技としてのランニングの喜びも久しぶりに味わったが、ふたたび結果だけを究めんとする競技の世界に戻ったわけではなかった。

「同じ走るレースでも、山とロードでは全然違います。ロードはスピードに対してずっと我慢をしているという感じなんですけれど、山は上りも下りもあって、緩急があるので、ふと休める瞬間も少しある。

それに、それなりに速く走っているときでも、トレイルの場合は、会った人と話すんですよね。そういう感覚がすごく好き。レース中に出会いが結構あって、そうした出会いでまた元気になったり(笑)。それがトレイルランの魅力のひとつだなと思いますね。

レースという管理された環境の中で、いろいろな山をグルッと走って回れるというのもいい。自分ひとりで山を走るとなると、そうはいきませんから。

タイムとか順位は、そういう楽しみの延長線上に着いてくれば、なおうれしいですが、何よりも今は、走ること自体が楽しい。高校時代よりももうちょっと前、中学生くらいのときの、走ることがただただ楽しかった時代に近い感じです」

準優勝を果たした2016年のUTMF。レースが一番ではないと言うが、その走力レベルの高さはさすが

新たに学ぶべきことが多かったのが、補給

トレイルを走るようになって、学ぶべきことが多かったのが「補給」について。ロードでのランニングよりも、トレイルのほうが、行動時間が長くなり、同じ距離でも傾斜や標高差に応じて負荷が異なるため、補給について十分な知識がないと走り切れない。

「最初はとにかく走りながら(エネルギーを)摂るという感覚がわからなかったんですよね。実業団時代は駅伝がメインなので、長い距離を走るとしてもハーフを年に2回程度。スピードで走り切れるから、そこまで補給の必要がなかったんです。

実際、補給の知識がほとんどなかった最初のハセツネでは、途中で足がつってしまうこともありました。一応、ソフトフラスクにエナジージェルを入れて持っていたりはしたんですけれど、結局、半分も飲めずに残していましたね」

その経験を踏まえ、補給について学び直し、自分なりの補給戦略を構築し始めた。

「レース以外でもいろいろな山へ走りに行って、レースペースくらいで長い距離を走るときに、補給の内容やタイミングをいろいろ試してみるようにしています。Mag-onジェルと、Enemoti(エネもち)やカルパス(※ドライソーセージ・サラミの一種)を組み合わせて1時間に1回摂ってみてどうか、とか。もうすこし早いタイミングで摂ってみるとどんな感覚か、とか。自分の場合、低血糖になると体温が低くなるので、補給の内容によって、そうした感じが出ないかどうかなどが、チェックする基準になります」

©LOTUS corp/Altra Japan

トレランの補給で、まず大事なのは「タイミング」

補給について学び、レースや山でのトレーニングを繰り返して実践的に研究してきた矢田さん。トレイルランでの補給で、一番大事なのは「タイミング」だと話す。

「私はロードのときの癖もあって、走りに集中しているとつい補給を忘れがちなんですが、タイミングがズレ始めると、カロリー摂取とか水分摂取がどんどんできなくなってくる。ハセツネで1回失敗してからはタイムをしっかり見て、補給を忘れないように気を付けています。

急登とか、路面が濡れていてスリッピーな場合も、補給に気がまわらなくなってしまいがちで、そういうときに補給の時間をしっかり確保するというのは難しいんですけど、大事ですね。やはり。

一般の方はなおさらだと思います。止まってでもいいから、しっかり補給したほうがいい。一瞬スピードが落ちたとしてもトータルでは早くゴールできると思います」

固形食とジェルの組み合わせ、「順番」で血糖値をコントロール

もうひとつ意識しているのが「順番」。心拍計やパワーメーターを活用してレース中に摂る必要があるエネルギー量を割り出すが(※矢田さんの場合は、ランニングのパワーが計測できるSTRYDTraining Peaksを利用して実際の消費カロリーを把握し、必要なエネルギー量を算出している)、ただ、その量を摂るだけでは不十分。

ジェルや固形など異なるタイプの補給食を適切な順番で摂って、血糖値をコントロールすることも大事だと実感している。

「糖質をいきなりたくさんと摂ってしまうと血糖値が急激に上がってしまい、そのあと逆に低血糖に陥ってしまうので、Mag-onジェル(糖質)の前に、吸収が緩やかなエネもちやカルパスをちょっと食べるようにするか、そうした固形食を食べて、少し時間を置いてからジェルを摂るという流れがいいと思います。

固形食をそしゃくすることで、消化吸収する身体のメカニズムにスイッチを入れたうえで、エナジージェルを摂ってあげるというイメージですね」

甘すぎず、おいしい。味が気に入っているMag-onジェルの中でも酸味の強いレモンやラフランスが好み

当初は走りながらの補給自体が不慣れで、海外製のエナジージェルの味にはなかなかなじめなかった矢田さん。甘すぎず、おいしいMag-onジェルが気に入り、愛用している。

「味的には酸味の強いレモンやラフランスが好きなんですが、レース前半にカフェインを摂ってしまうと心拍数が上がってしまう感じがするので、ロングレースの場合は、後半、眠くなるタイミングで入れるようにしています。前半は(カフェインレスの)梅とグレープフルーツ、アップルを組み合わせますが、梅の比率が結構高いですね(笑)」

当初は走りながらモグモグそしゃくすることも苦手だったが、最近は固形ながらも比較的食べやすい「エネもち」が出て、固形とジェルの合わせ技もスムーズに。

「エネもちも甘すぎず、和風でなじみやすい味が気に入っています。(糖質の吸収と血糖値の上昇を緩やかにしてくれる)パラチノースも入っていますし、(糖質とは消化吸収のスピードも異なる)たんぱく質と脂質がしっかり入っているのもいいですね」

メインのMag-onジェルに、糖質の吸収が緩やかでたんぱく質や脂質も含む固形食「エネもち」を組み合わせるのが、矢田さんの補給戦略

おばあちゃんになっても、走ることや山を楽しむために。

トレイルランやウルトラのレースを通じて、自らが走る楽しみを再発見した矢田さん。鍼灸の資格をもつトレーナーとして、またランナーとして積んできた経験を後進や一般のランナーらに伝える指導者としても、自らの進むべき先がクリアになってきている。

今年(2017年)4月に、ご主人の矢田大さんとともにトレーニング&治療院「TREAT」を立ち上げ、ランニングやアウトドアスポーツを長く楽しみ、効率良くレベルアップするためのサポートを始めた。

ご主人・矢田大さんと立ち上げたトレーニング&治療院TREATでは、ベースとなる動きや身体づくりから指導している

「故障しないための治療や動きなどの指導と合わせて、トレーニングプログラムの提供も本格的に始めようとしています。ピリオダイゼーションの考え方で、期分けして、期間ごとにすべき内容を明確にして――というふうにプログラムを組むうえで、だいたい何をすべきかは、ロードでもトレイルランニングでも基本は同じ。

ロードと少し違うのはコース特性などに合わせた実戦対策で、トレランでは(ターゲットとするレースで走る)山の傾斜角度などに合わせた強化も考えなければならない。距離は積まなくていいけど、質的なものをレースに近づけてやるという工夫は必要です。

自分自身、今、ピリオダイゼーションでプログラムを組んで、的確なタイミングで、的確な内容のトレーニングを入れて、あまり余分な練習はしないようにしています。元々トレーナーや指導者としての仕事や家事をしながらで、走れる時間も少ない。自分で実証している感触があるので、それをみなさんに還元できればいいかなと。

働きながら趣味の領域で走っている方たちが、ケガをせずに効率よく目標を達成できるような仕組みをつくりたいですね」

©LOTUS corp/Altra Japan

走る楽しみをより長く、できれば生涯、味わい続けてもらいたい――。それは市民ランナーたちに広めたいことでもあり、自らのランニングライフの目標にもなっている。

「今はレースで結果を出すことが一番ではなく、いろんな山を走りたいなという想いが強くて、その中のひとつがレース。おばあちゃんになっても走りたい。それが目標なんですよ。まずは健康でいることが大事で、そのときどきで走る楽しみとか、山へ行く楽しみを見いだせればいい。

走る楽しみって、本来はレースだけじゃなくて、一番は、そっちにあるんじゃないかなと、そう思うんです。だから、自分も競技以外で(走ることを)楽しんでいる姿を見せて、皆さんにも、より長く続けてもらいたいなと思っています」

プロフィール
矢田夕子さん
UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)準優勝、野辺山高原100kmウルトラマラソン優勝などの戦績をもつ、トレイルラン二ング、ウルトラマラソンのトップ選手。室蘭大谷高等学校(現・大谷室蘭高等学校)や、松下通信工業株式会社入社(現・パナソニック株式会社)女子陸上競技部でエリートランナーとして活躍(自己ベストは5000m 16分17秒、10000m 34分13秒)した後、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師に。現在はトレランやウルトラで選手としても活躍しつつ、度重なる故障に悩まされた実業団選手時代の経験を生かした施術や指導を手がけている。1984年、北海道生まれ。

トレーニング&治療院「TREAT」
夫・矢田大さんと今年4月に立ち上げたトレーニング&治療院「TREAT」(東京都多摩市)ではグループトレーニングのほか、矢田さんのトレーニング指導やプログラム提供、施術を受けられる。
http://treat-running.com/


Mag-on公式サイト

http://mag-on.net/

Mag on®史上一番すっぱい「ラフランス味」のエナジージェル、登場。

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コメント

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  1. 大沼中の時の社会科教師だった小西です。私も8年ほど前から走り始め、ハーフを3回完走しました。従兄弟がトレイルランをしているので、偶然貴女を発見!鴨井夕子さん貴女は今でも太陽のように生きているのですね。とても嬉しいです。7月7日、函館はマラソンに出ます。息子と同い年でもあり、忘れていませんよ。幸せそうでうれしくなり、コメントに書きました。

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