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トライアスリートのための超シンプル 「パワー」マネジメント

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ルミナ編集部

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2015年からレースでもパワーメーターを導入しているという戸原。今回の宮古島ではスイムの遅れを取り戻すべくバイク序盤FTP(後述)の約80%でプッシュしていったという 🄫Kenta Onoguchi

パワーを基準にすれば、より確実にレースペースを管理できる!

パワーメーターの導入が手軽になった今、トライアスリートが取り入れない手はない、超シンプルなパワーマネジメントの方法を戸原開人に訊く――。

コメント=戸原開人
2015・2016年宮古島大会連覇。2017年はコナ(アイアンマン世界選手権)へ初出場を果たすなど、日本を代表するロングのトッププロ。

取材・文=今 雄飛 写真=小野口健太

レースで見るのは
パワーだけでいい?

ペダリングの出力(パワー)を可視化するパワーメーターは、もはやトップ選手だけのものではない。導入しやすい価格帯になり、使いやすいものが増えたため、一般的なエイジグルーパーの間でも身近なものになりつつある。しかし実際「使えている」トライアスリートはまだ少ないかもしれない。数年前からパワーメーターを導入している戸原開人は語る。

「パワーメーターを本当に有効に使いこなすには、相当な知識が必要ですし、コーチが必要なレベルになるでしょう。だからといって、必要ないと言ってしまうのはもったいない。使ってみて実感しましたが、外的なコンディションに影響を受けやすい心拍計を使っていたときよりも、正確なペーシングがでるようになりました。今回の宮古島も想定していた数値を基準に、それを調整しながら走りましたが、今やパワーメーターなしでバイクには乗れないと思っているくらいです」

ガーミンのエッジシリーズなどパワーが表示されるデバイスを使えば、出力(W)をリアルタイムで把握できる。戸原やダフィのようにレース中はパワー表示だけを見ているという選手も(※写真はガーミン エッジ520J)

サイクリストの使用率が高いイメージがあるパワーメーターだが、レースで使うことを考えれば、トライアスリートにこそ有用なものといえるかもしれない。TTを除けば、ロードレースは集団で走り、さらに展開によっては、ペースの上げ下げが頻繁に行われる。決められた数値に合わせて走り続けるという使い方はトライアスロン向きだ。

「トライアスロンのバイクパートは、言ってみれば距離の長いTTみたいなものです。そのバイクパートを、次のランまで足を残せる一定ペースで走り切る(一定のワット数を保って走る)のは、トライアスロン特有ですし、だからパワーメーターが有効なのです」

またパワーメーターが「使える」のは、ロングだけではない。ドラフティングが許されている51.5㎞のエリートレースでもフローラ・ダフィ(後述コラム参照)のように、単独で抜け出してパワーだけを見てペースを作り、そのまま逃げ切って優勝してしまう選手もいる。もちろん一般エイジの場合はショートでも単独走が基本なので、ダフィと同様の使い方ができるのは言うまでもない。

©ITU Media / Wagnar Araujo

単独走ならショートのペース管理にも有効
集団のままバイクを終えランニング勝負、という展開がよく見られるドラフティングレースにあって、バイクレグから単独で抜け出しそのまま勝ち切ってしまうITUのトップ選手フローラ・ダフィ(写真)。実際に抜け出した後は、他の選手の走りやレース展開などを気にすることなく、自分のメーターの数字だけを見て走ることもあるという。

レースでのデータを蓄積して
より確実なペーシングを

ではそのパワーメーターを、実際どのようにレースのペースづくりに利用していけばいいのだろうか?

「パワーメーターを使い始めたら、実際のレースでのデータを蓄積していきましょう。レースのペースづくりに使う場合、FTP値(後述)などを目安にすることはできますが、実際のレースのデータが集まっていないと、正確なレースペースの管理はできないんです。

トライアスロンは、スイム後すぐにバイクに乗り、さらにランニングをするスポーツです。特にロングだとトレーニングでレースと同じ疲労した状況を作るのは難しい。もちろんある程度予想をすることはできますが、バイクをどれくらいのワット数で走って、その後どれくらいランが走れるかは、結局レースでやってみるしか分からないのです。

この理由から、最初の数回はデータの蓄積をしていくつもりで走るといいでしょう。うまくいったレースでの数値を基準にして『もう少しプッシュできる』とか『これが限界だった』とかを経験的に積み上げていくわけです」

🄫Kenta Onoguchi

最初に目安となるペースは
FTP値の60~70%

パワーメーターを活用する際に必ず出てくるのが「FTP」という数値。簡単に言えば、1時間で維持できる平均ワット数のことだ。

FTPとは?

1時間維持できる平均パワーのこと。一般的には20分間の全力走で計測することが多く、1時間に換算すると5%程度低くなることから、20分の数値に0.95をかけたものをFTPとして使用する。

★一般的な求め方 
20分間の全力走(W)✕ 0.95

「FTPは役に立つ指標で、それを計測する際、20分維持できる平均ワット数に0・95をかけるのが一般的だと思います。そこで出た値の60~70%くらいがレースペースになると考えるのが一般的。FTPはトレーニングを行うことで数値が高まっていくと思いますが、それはあくまで1時間保てるであろう平均ワット数です。特にロング派の人は注意が必要なのですが、1時間のパワーは高くなっても2時間後にペースがガタ落ちしてしまうのでは、最適なペースとは言えないのです。

より確実なペース管理をするには、FTPの何パーセントのワット数でレースを走り切れるか、という実戦に基づいたデータが必要になるのです。FTPが高い数値を記録していても、バイクパートを通じて、できるだけ高い数値でそれを維持できるかが大切。

さらになるべく高い数値をキープするためには、トレーニングはもちろんだと思いますが、レース中の補給なのか、ポジションなのか、さらには前日のコンディショニングなのか、いろいろな要素が絡み合ってきます。それをひとつずつ解きほぐすのも楽しいのですが。

自分は今、FTPを計測していないのですが、パワーメーターを導入した人は目安として自分の数値は把握しておいてもいいと思います。その上でその何%を出すと、どれくらいの時間走れるのかを考える。目安として話しておくと、アイアンマンのトップクラスだと180㎞を80%くらいで走っています。一般のトライアスリートだと70%出せればすごく高い数値ではないでしょうか」

トライアスロンを行う上で必要なギアとして「かなり上位にランクされる」と戸原が語るパワーメーター。ブランドによって、表示される数値が違うこともあるが、あまりその数値に振り回されないことが必要になるという。

「データそのものの精度も大切ですが、正確に何ワットなのかよりも同じブランドのパワーメーターを使い続けて、数値の傾向・推移をつかむことのほうが大切です。パワーは高い数値のほうがSNS映えするかもしれませんが(笑)高い数値だから速く走れるわけでもないですし、他人との比較ではなく、自分のデータがとれればいいだけです。

心拍やスピードなどと比べるとパワーは絶対です。ペース管理はもちろん、レースの評価が正確にできるのもいい。トライアスリートにこそ、パワーは必要な指標だと思います」

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