宇都宮村上塾・経澤コーチ
大人になってから泳ぎ始めた人のための「板キック」 #04
>>> #01 「究極のケイレンキック?」を目指して
>>> #02 陸上でできる、キック推進力アップのためのストレッチ
>>> #03 キックの「力み」がどうしてもとれないときは?
良くない「キック動作」には、いくつかの典型がある。
今回のテーマは第3チェックポイント。キック動作について。
キック動作は良くない典型例がいくつかあるので、それらの説明と、改善策から理想のキック動作を見ていきたいと思います。
良くないキックの典型①
下駄キック
前回のコラムでも述べましたが、足首が曲がった一番進まないキック。これをうまくやる(?)と後ろに進みます。こうした「下駄キック」になってしまっている場合、まずは原因が「力み」なのか、「柔軟性が低下している」からか、それとも両方か見極めましょう。
柔軟性が低下している場合は、以前紹介したストレッチをやって、少しずつ可動域拡大を目指しましょう。
力みが原因の場合は、腰かけキックを(できれば指導者などの補助を受けながら)やってみましょう。このときのポイントは「足首は自分から動かそうとしない」こと。勝手に動く、受け身がいいのです。
自分自身で「今、正しいキックができているかどうか」ハッキリわかると上達も早いので、例えば腰かけキックをやっているときに、つま先の辺りの水面に指導者(補助者)が手のひらを置いてできているかどうかをチェックし、その都度言ってもらうとわかりやすいと思います。
リラックスできているときは、補助者の手の平に足の甲が「ベチ~ベチ~」と当たります。つま先がツンツンと当たる、または足の甲がコンコンと当たる場合は力んでいるときです。
良くないキックの典型②
自転車こぎキック
自転車をこぐように足を動かしてしまい、結果、足の甲に水がうまく当たらず進まないキック。
また、けり戻し動作のときにカカトがお尻に近づきブレーキ動作になっていることもあります。このけり戻し動作に問題がある人(ヒザを伸ばした後、すぐにヒザを曲げてしまう人)は、仰向けのキック(背泳ぎのキック)が苦手です。
おヘソが下向き(うつ伏せ)の板キックでは、けり戻し動作に問題があってもピッチや力でごまかすことができますが(水面より足を高く上げれば水の抵抗から逃げられるので)上向き(仰向け)のキックはけり戻し動作がまずいと水の抵抗をもろに受けるのでごまかせません。なので、背面キックが苦手な人はけり戻し動作に問題があると思ってもいただいて結構です。
対処法としては、まず腰かけキックで正しいキック動作を確認します。これも指導者に補助してもらいながらできれば理想的。ポイントは足を前後に動かすのではなく上下に動かし足の甲や裏で水をとらえることです。
できるようになったら気をつけの姿勢で上向きのキックの練習をやってみましょう。背面(仰向け)の姿勢に不安がある人は指導者・補助者に頭を補助してもらうか、ビート板を使ってもいいでしょう。
ポイントはヒザが水面から出ないようにワンキックごとにヒザを伸ばしきる(水面が盛り上がるまでけり上げる)こと。カカトがお尻に近づかないようにヒザを伸ばしたままけり戻し動作を行います。遠くのほうで足首を上下にブラブラさせるように意識してやってみてください。
良くないキックの典型③
棒キック
ヒザ、足首は伸びているものの「力み」のため脚全体が硬直して全くしなりのないキック。この場合は、太ももの前のストレッチやヒザが緩んだ状態をまず意識・確認してみましょう。
ゆっくり水中ウォーキングをしながら「ヒザが緩んだ状態からヒザを伸ばす感じ」をつかんでください。ヒザは曲がっててもいいですが、カカトがお尻に近づかないように注意!
良くないキックの典型④
ケイレンキック
足が前後に動くところは②の「自転車こぎキック」と同じで、かつ力んでいてヒザが伸び切らない、けり幅の小さいキック。
こうしたキック位なっている人は、ふたつのことを意識してみてください。
ひとつは、ワンキックごとにヒザを伸ばしきること。
もうひとつは、ボールが弾むように反動を使ってけり戻し動作(ヒザを伸ばしたまま太ももの裏を水面まで持ち上げる。ヒザを伸ばした後すぐにヒザを曲げない。カカトをお尻に近づけない)をすること。
このけり戻し動作はフィンを活用した「両足を揃えたドルフィンキック」をやると感じがわかりやすいと思います。
力んでヒザを曲げ伸ばしするのではなく、緩めて伸ば~すのがポイントですよ。(ヒザが伸びている時間が長くなるように。反動を使ってけり戻し動作ができるように)とにかく力んでいると正しいキック動作ができません。リラックスして、まずはけり幅の大きなキックを意識してみてください。
※よくキックのけり幅が小さく数多く打つようなキックのほうが造波抵抗(水面に波ができることによって生まれる抵抗)を抑えて推進力が得られると言いますが、初心者の場合はまずゆっくり大きなキックを練習しましょう。初心者の場合、けり幅が小さく速いキックは力みにつながり正しいキック動作が難しくなるからです。
良くないキックの典型⑤
ガニ股キック
ヒザが外に開き、足の甲の平らな部分に水がうまく当たっていないキック。
このガニ股キックを直すには、まずは腰かけキックで自分の目で動きを確認しながら練習。足の甲に水がぶつかって水が前方にきれいに流れる、つま先より先の水面が盛り上がる。小指側からけり上げ・親指側からけり下げる感じ。
このタイプのキックの人は日常生活でも常にヒザが外に開いていることが多く、股関節の内旋系のストレッチが効果的な場合もあります。
こう見てくると第2チェックポイントの「リラックス」と、今回の第3チェックポイント「キック動作」は深く関連しているのがわかると思います。リラックスしていないと正しいキック動作はできないと言えます。
色々回りくどく述べてきましたがどうだったでしょうか。タイトルの『太ももから元気よく、遠くの方でぶらぶら~』の意味が分かりましたか?
プールで説明するのは楽なのですが・・・。
普段、子どもに教えるときには、もちろんこんなことはわざわざ説明しません。子どもたちは話をじっと聞けないし、理解できない、それにつまらないし、寒い! あるベテランのコーチは子どもたちに言いました。「お前たちには手の動きは教えられてもキックは教えられない。練習頑張って自分で身につけるしかないのだよ」と。
身体で(補助で)教える。身体で分かってもらう。プールでいろいろ遊んでいたら知らないうちにできていた、というのが理想です。
一方、大人のトライアスリートはそうもいきませんから、まずは頭で理解。それから練習!
最後にひとつ。個人差はあれ、ある程度の慣れ(練習)は必要です。特にキックが苦手だという人は好き嫌いせずにスイム練習の4分の1はキックの練習をしましょう。
そして、どうしてもうまくいかないときは、信頼できる水泳指導者にみてもらいましょう。そのほうが当然、上達は早いと思います。
■著者プロフィール
経澤耕達(つねざわ・こうたつ)
宇都宮村上塾 専任コーチ。日本体育協会公認トライアスロン指導者 筑波大学大学院修士課程体育研究科コーチ学専攻修了 16年 岩手国体 出場 77位