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86歳アイアンマン世界王者 稲田弘さんに学ぶ。 生涯トライアスリートであるために今からできること。vol.1

投稿日:2019年3月27日 更新日:


ルミナ編集部

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12人のアスリートが3カ年計画でIRONMAN World Championship(アイアンマン・ハワイ)初出場を目指すプロジェクトKONA Challenge(通称KONAチャレ)。この企画と連動して、日本人KONAアスリートの代表である稲田弘さんの日常生活からトレーニング、食事についてのインタビューと普段KONAチャレメンバーが行っている4施設での測定を受けてもらった。

86歳KONAアスリート稲田 弘さんに学ぶ

生涯トライアスリートであるために今からできること

多くのエイジトライアスリートの憧れであり、いつか叶えたい生涯の目標であるコナでのレース。すでにそれを手に入れているKONAアスリートの軌道から、今私たちができることのヒントを見つけ出そう。

©Kenta Onoguchi

86歳世界王者・稲田弘さん

100歳までトライアスロンを楽しむには

どんなプロ選手よりも、コナで何勝もしているレジェンドよりも世界中で最も有名なトライアスリートと言えるかもしれない。

稲田弘さん86歳。SNSが普及した今、レースの様子がアップされれば多くの人がコメントを寄せ、個人的にもメッセージが送られてくる。

健康寿命100歳と言われているこの時代に、トライアスロン健康年齢100歳を目指すためには、今何をすればいいのか。稲田さんのオフ期のある1週間のタイムスケジュールを見ながら、そのライフスタイル、トレーニングや食事内容から、私たちが参考にできそうなことを探ってみよう。

トレーニング Training

【Recommended Point】
▶昔の栄光(練習量)にとらわれない
▶体力・判断力の低下は体幹とバランスで補う
▶マンネリ回避、探求心をもつ
▶トレーニング日誌をつける
▶レース前の緊張は練習不足の証

トレーニングは週6回 仕事もこなす86歳

所属する稲毛インターナショナルトライアスロンクラブの朝スイムや練習会、自主練と合わせてトレーニングは週に6回行っている。月曜日は今も放送局へ出勤し、海外ニュースのチョイスから原稿作成、収録までをこなして帰宅は深夜になることが多い。そのため、実質月曜日の夕方~火曜日の午前中まではレストに充てている。

朝スイムは週2回、土日はコーチである山本淳一さん(※)の合宿やロングライドに参加することが多く、合宿がない日曜日は1周800mの不整地や長い階段もある公園内を走るクロスカントリーランを実施している。

冬場の月末の週末はバイクトレーニング合宿に参加し、大学生を含めたさまざまな年齢、レベルの選手と練習をともにしている。「これが寒いし、雪が降ったり防風だったり本当にキツイしツライ!」(稲田さん)。

山本さんは「コナに行くためにやるべきこと」として稲田さんにメニューを与えているので、バイクライドの途中で待っていたり、距離を減らしたりすることは一切ない。

「みんな厳しいけれど、コナに行くためでしょ、だったらこれくらいやらなきゃ、と本当に僕のことを考えてくれているんです。だからなんとしてでもやる。でもきついものはキツイ(笑)」

また、3年ほど前までは、週に一度30km走を行っていたが、現在は長くても20㎞~25㎞にとどめている。

「83歳くらいまでやっていたかな。でも、体力的にはもちろん、気持ちの上でも集中力が続かなくて、歩くことが多くなってきたので、今は距離を減らしています。大会が近づいてくると30㎞走をやるときもあるけれどね。

よくオーバートレーニングにならないように、と言うでしょ? でも僕の場合、合宿は例外だけどオーバートレーニングができない! その前に自分の今の身体の調子と感覚を見ながらトレーニングを調整しています」

加齢に抗うことができない部分はそれに無理に逆らわず、以前の練習にこだわらずに内容を工夫している。ただ、のんびりできない性格なので雨が降っても走ったり、傘をさして散歩したりすることもあるそう。

2017年コナでのレース ©Kenta Onoguchi

故障から気づいたケアの重要性

2016年7月に合宿のバイクライド中に脊柱管狭窄症を発症した。手足がしびれて歩けない状態からブロック注射やリハビリなどを行い、10月のコナへ出場、この年は見事に完走して世界チャンピオンの座を手にしている。その経験から身体の使い方やフォームについても研究するようになった。

2013年から縁あって稲田さんの身体のケアを担当しているつだぬまはりきゅう接骨院の春日秀友さんは

「まずは体幹トレーニングやバランスを整えることを行い、その後ケアをしていきます。体幹トレーニングは難しいことはしていません。たとえば、バランスボールの上に座って両手を離すことや、足にゴムチューブで負荷をかけてトレーニングすることなどです。さまざまな年齢のトライアスリートを見ていますが、稲田さんはだいたい一般エイジの40代~50代くらいのバランス感覚と体幹の強さ、筋力だと思います。

年齢とともに体力と判断力は落ちてきますが、それを補うように体幹とバランスのトレーニング強度は逆に上げていくんです。稲田さんも年々強度が高くなっていきます。そして、脱帽なのがその探求心と向上心。うまくいかなかったら、それに対してとても真剣に向き合って、さまざまな解決法を試そうとします。その上で、自分に必要かそうでないかをきっちり取捨選択できる能力にも長けていると思います。

そして何より、毎日の生活が充実していることがパワーの秘訣でしょう。コナ出場、世界記録更新など非常に明確な目標があり、老若男女いろいろな人に会って刺激をもらっている。稲田さんが競技を続ける限り、とことんサポートしていきたいと思っています」と話してくれた。

普段は1日置きに筋トレを行う稲田さん。その内容は、筋力アップというより身体をほぐすことに重きを置いているという。

「歳の影響もあり、関節が硬くなったり可動域が狭くなるのは受け入れないといけない。だから、自分でやるのはだいたい身体をほぐすストレッチのような筋トレが多いですね。スイムの前なんかにやって、少しでも動きがスムーズになるように心がけています」

トレーニング記録は自分の感覚を大事に

トレーニング日誌は、10年前くらいからつけていて、トレーニング内容とそのときに感じたことなどをメモしている。たとえば、「B(バイク)75㎞ 検見川沿い~久手。うぐいすの声、雨の中走る」、落車のケガの影響でスイムを再開したばかりのころには「筋トレ、S(スイム)300m。左プル確認、まだ納得できず」など。

また、バイクやランニングで「ママの墓」という目的地が多くみられるのだがそれは、血小板減少紫斑病という難病で67歳に逝去された奥様に節目には必ず報告に行くからだそう。

「12㎞コースに設定しているので、普段も良くいきますし、コナの後は必ず報告に行きます」

トレーニング量の集計は特に行っていないそうだが、ただがむしゃらなわけではなく、自身の感覚を頼りにトレーニングの量や内容をしっかり調整している。たとえば、2018年に世界チャンピオンになったレース直前9月の練習量は、スイム1万7400m、バイク671km、ラン92.9km。その他に、ケアや筋トレなど行っている。

トレーニングを続けていくモチベーションはどこにあるのだろうか。

「まずは、練習が楽しいということ。良いと言われたことはとりあえずなんでもやってみる。そうすると、毎回何か良い発見が必ずあるんです。今日よりも明日、明日よりもその次、とできなかったことができるようになると楽しいし、本当にうれしい。だから僕はトライアスロンを続けていけるのだと思います。

初めてコナに出たときは本当に緊張しました。でも、今は一切緊張しない。練習は楽しいと言ったけれど、レースよりもトレーニングのほうがよっぽどきつくてツライでしょう? 練習であれだけのことをやったのだから、レースでできないわけがない、と思ってスタートを切るんです。日々のトレーニングすべてがコナでの自信につながっています」

睡眠 Sleep

【Recommended Point】
▶最低8時間は確保(マイベスト睡眠時間を知る)
▶レース前の不眠は仕方ないと割り切る
▶夕飯から就寝までは3時間あける

マイベスト睡眠時間を見つける

なるべく毎日8時間以上睡眠を確保している。フルタイムのエイジアスリートにはなかなか難しいかもしれないが、ここで参考にしたいのは、自分の最適な睡眠時間を見つけることだろう。
「一度試しに7時間半にしてみたけれど、たった30分短いだけでもつらく感じましたね」

睡眠時間を確保するために、夕食の時間にも気を使っている。胃を休めるためにも就寝まで3時間あけることを意識して逆算して食事をするようにしているそう。でも実は、早起きが苦手。特に、レース前日は「早く寝なきゃ、早く起きなきゃ」というのがストレスになり、眠れないという。

「たとえば、コナのレースだと3時には起きなきゃいけない。8時間睡眠を確保するとしたら、19時就寝ということになるけどそれは難しい。緊張して眠れないわけではないんですけどね。どうしようもないので、レースの前々日にしっかり寝るようにしています。そうすると前日眠れなくても安心できます」

実際に寝溜めしておくことはできないかもしれないが、精神的な安定につながる方法を見つけている。

「稲毛のスイムも朝早いけれど、それはちょっとくらい遅刻しても大丈夫でしょう(笑)。絶対に起きなきゃいけないという状況が僕は苦手みたいです」

食事・栄養 Nutrition

【Recommended Point】
▶ビタミン・ミネラルをしっかり摂取で、3大栄養素の代謝を上げる
▶発酵食品の活用で腸内環境を整える
▶玄米や麦などで血糖値の上昇を緩やかに
▶手作りすることで食への関心度がグンと上がる

現在一人暮らしである稲田さんは朝晩は毎日自炊し、ほぼ同じものを食べている(写真参照=稲田さんが自宅で撮影)。昼は練習中や出先が多いので、外食か弁当がほとんど。ただ、練習中に食べるコンビニの弁当にはこだわりがある。

「豚肉と麦ご飯の弁当、398円(笑)、これが僕のこだわりです。まず豚肉はビタミンB1(編集部注=糖質をエネルギーに変えるための補酵素の役割がある)が豊富だし、麦飯は白米よりも糖質が少なく血糖値の上昇が抑えられて、栄養価が高い。量も程よくて腹いっぱいとまでいかないところがいい」

≪世界チャンピオンの食診断≫

ここで稲田さんの食生活について、専門家であるスポーツ管理栄養士の佐藤彩香さんに聴いてみよう。

朝食でビタミン・ミネラルを摂取

まず3食しっかり召し上がられていて素晴らしいです。

朝ごはんで14種類の野菜からビタミン、ミネラル、食物繊維といった栄養素をしっかり摂取できています。どうしても糖質やたんぱく質などアスリートに必要な栄養素のみに偏りがちなので、この辺りの微量栄養素は不足している人が多いんです。ビタミン・ミネラルなどの栄養素は身体をしっかり機能させていく上でとても重要です。

スープに入っている緑黄色野菜は、抗酸化栄養素がしっかり入っています。身体が酸化状態になると、心肺機能に負担がかかり、疲労感もとれにくくなります。さらに酸化は、加齢を加速させ、生活習慣病にも結びついてしまうので、長く競技を続けていくためには抗酸化作用のある食品は積極的に取り入れてましょう。稲田さんはしっかりそれを実践しています。

また、糖質の摂り方もいいですね。ライ麦パンは、普通のパンに比べて血糖値の上がり方が緩やかです。そのため、身体への負担も少なく、太りにくい糖質の摂り方と言えます。果物もゆっくり血糖値が上がり、ゆっくりエネルギーになるのでオススメです。

お昼ご飯のお弁当は糖質とたんぱく質がしっかり摂れる豚丼で、良いチョイスです。ただひとつアドバイスするなら、味噌汁などを先に飲んでもいいかもしれません。出汁が胃腸を労わってくれ、寒い時期ならば身体を温めるにためにも有効です。

朝食:野菜スープ味付けを変えて2種類:全部で14種類の野菜を使用、他きのこなど。どんぶり1杯×2、ライ麦パンのトースト(ブルーベリーとはちみつ)、りんご、バナナ、豆乳1杯

【食事内容】

夕食:玄米1杯、焼き魚(メザシ)、豆腐・わかめ・なめこの味噌汁、納豆キムチ混ぜ、たくあん、梅干し、生卵 ※朝ごはんと夕ご飯は多少の入れ替わりはあるものの、いつも同じものを食べている。

発酵食品で腸内環境正常化

夕飯には、発酵食品が多く登場していていいですね。納豆キムチやたくあんなどの漬物を摂ることで、腸内環境に良い菌を毎日腸内に届けられていると言えるでしょう。

腸内環境を整えることは、疲労回復の促進になり、栄養や水分を吸収して、必要なものを身体に蓄える上で大切です。アスリートならば腸内環境は良い状態を保っていくことがとても重要なので、発酵食品は大きなポイントになります。

健康+アスリートとしてたんぱく質も

全体的に手作りで、安心安全なものを食べていて身体も喜んでいるでしょう。より良くなるポイントとしては、強度の高い練習をしたときなどはもう少したんぱく質を摂ってもいいかもしれません。特に朝食にたんぱく質が少なめなので、たとえばスープに卵を入れてみたり、ヨーグルトなどを付け加えてみたり。

競技を続けつつ、いきいきとした生活を長く送っていくためにも今のような習慣を継続してください。稲田さんへのアドバイスは一般アスリートの皆さんにも共通していますので、ぜひ参考にしてください。

稲田さんには、2020年中にコナ出場の権利を獲得することを目的とした「KONAチャレ」企画で、メンバーが3カ月に1回測定を受けているサポート施設にて、同じ測定を受けてもらった。 次の記事ではその様子をそれぞれ結果とフィードバックとともに紹介しよう。

コメントプロフィール■
春日秀友さん
つだぬまはりきゅう接骨院委員長。2013年からほぼ毎年コナのレースにも同行している。トライアスロンのエリート選手から他競技のプロ選手へのケア・治療を行う。自身もトライアスリート。栄養学の知識も豊富でさまざまな角度からアプローチし、選手を支えている。
http://www.tsudanuma-hari.com/
佐藤彩香さん
スポーツ管理栄養士・予防医学士。企業・保育園の栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算などの活動を経て独立。大学、実業団、プロチームなどのスポーツ選手や健康志向の人たちに、実践型の栄養サポートを提供。手がける競技は競泳、陸上長距離、ソフトボール、サッカー、ラグビーなど多岐にわたる。

(※)山本淳一さん:アスリートワークス代表。稲田さんが稲毛のスクールに入ったころから指導をしている。自身トッププロとして活躍後、幅広いレベルのアスリートへの指導も行う。

>>>インタビュー「86歳世界王者のトレーニング・食事・睡眠から学ぶこと。」
>>>スイム「肩甲骨周りの柔軟性は20代にも負けていない」《AQUALAB》
>>>ラン「最大酸素摂取量から見えた強さの秘密」《Sports Science Lab》
>>>バイク「競技歴はまだ16年、スキルアップの伸びしろだらけ」《Endurelife》
>>>ボディーコンディショニング「プロも驚く体幹の強さ」《R-body》

【4/28開催★KONAチャレEXPO】

ロングでKONAや自己ベスト更新を目指す人から、いつかレースデビューしたい!という人まで、トライアスリートの挑戦に役立つ”学び”と”気づき”の総合イベント。86歳のKONA王者・稲田弘さん✕TK(竹谷賢二さん)やKONA常連エイジのクロストークから、参加して・楽しめるワーク付きのセミナーまで、盛りだくさんな内容が、すべて参加無料で体験できます。
★詳細・エントリーはこちらから https://kona-challenge.com/expo/index.html

>>>KONAチャレ過去掲載記事を読む

◎「KONA Challenge supported by MAKES」オフィシャルHP

オフィシャルページでは、メンバーのトレーニング状況やピックアップコンテンツなどを随時更新しています。

◎MAKES
https://makes-design.jp/

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