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米国レースは、いかにしてコロナ禍から復活したか?

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山村 勇騎

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2021年11月に米・ユタ州セントジョージで開催されたアイアンマン70.3世界選手権は、観戦者の制限などが緩和された、新しいプロトコル下で開催された ©Donald Miralle/IRONMAN

文=山村勇騎

エントリーフィー返金をめぐり
WTCを提訴する事例も

2020年は、コロナパンデミックの影響で、アイアンマンやトライアスロンレースに限らず、世界各国すべてのスポーツイベントが、延期やキャンセルとなってきた。

だが、その渦中で、米国内のトライアスロンレースは、どの国よりも早く開催へとこぎつけた先駆けとなった。

2020年3月頃からアイアンマンレースのほとんどが、キャンセルや延期となる中、開催への兆候を見せ始めたのは、11月頃だった。

一度延期された70.3テキサスやラボック(テキサス州)レースは、11月に開催の可能性が、かなり濃厚となったが、開催数日前ギリギリで両方とも突如キャンセル。

このギリギリの決断事で、アイアンマン・シリーズの主管企業WTC(ワールド・トライアスロン・コーポレーション社)への不信や返金を訴える選手も多く出始めた。

実際、アメリカ在住の選手が、エントリーフィーの返金をめぐってWTCを提訴するケースが出るまでにもなったが、レースへエントリーする際に『自然災害への返金なし』という項目が含まれた承諾書にサインしているので、返金はされることはない。

しかし、ほとんどの選手は、翌年のレースへエントリーを移すことになった。

2020年11月
ホームでのレース復活

こういったニュースが続く中、トライアスリートたちの関心は、WTCが本社を構えるフロリダ州のホームレースである「アイアンマン・フロリダ」開催への期待に向けられた。

多くのアスリートにとって、フライトや宿のキャンセルなど、ギリギリの判断が必要な中、このフロリダ大会も、それまでと同じように直前で開催がキャンセルされるのではないかという不安も広がった。

しかし、フロリダ州では、フットボールや野球などの大規模スポーツイベントについても、少数規模での開催を許可し始めた頃だった。

そのため、現地の制限もかからず、パンデミック後、初のアイアンマン復活レースとして、アイアンマン・フロリダの開催が確実となった。

その当時は、まだワクチンが承認される前で、WTCは、独自の感染予防プロトコルを試行。マスク着用、エキスポの一方通行、エキスポベンダーの削減、アスリートのみエキスポエリア入場制限、トランジションエリアの観戦者の人数規制、口頭での健康チェック、検温チェック、トランジションの着替えテントなし、時間予約制のアスリートチェックインとバイクチェックインなど、細かなプロトコルを施行した。

筆者自身もこの大会でレースメカニックとして働いていたが、エキスポやレーススタッフ全員に検温と健康チェックが毎日実施され、その証明としてリストバンドをもらうことになった。

エキスポは屋外だったが、常にマスク装着とソーシャルディスタンスをとることが徹底され、新しい環境下のエキスポやチェックインは、アスリートのみ入場が許されるという規制だったので、人の密度が少なく、かなりスムーズに進んでいた印象だ。

レース当日も、トランジション入場時とフィニッシュ後に、N95マスクが配られた。朝のトランジションからスイムスタートの間、ずっとマスクを着用し、スタート直前に脱ぎ捨てる。

「2020年」の11月に開催されたIMフロリダのスタートエリア

スタートは、スイム予想タイム別のフィーディングスタート。

自分のスイムタイムのグループが呼ばれるまでトランジションで待機。呼ばれたら、できるだけ間隔を開けながら、スタートまで列になって移動し、4~6人くらいで横並びし、10秒ごとにスタート。

フィニッシュラインのまわりは「観戦者立ち入り禁止」なので、スタッフやボランティア以外は誰もいない。フィニッシュした後、すぐにマスクが配られ着用しなければならない。

2020IMフロリダのフィニッシュシーン。当時はレースを終えた直後にはマスク着用が徹底されていた

エイドステーションも、バイクパートを除いて、基本的にボランティアから何も受け取らず、メダルや参加賞は、自分で取るセルフサービス式。

この新しいプロトコルで、大きなハプニングも起こらず、レース自体も無事終了した。

規制が緩和されたプロトコルのもと、開催された2021年11月の70.3世界選手権(セントジョージ)© Donald Miralle/IRONMAN

2021年、米国レース続々開催へ

2020年11月のアイアンマン・フロリダの開催成功を皮切りに、2021年のアイアンマンレース復活に大きな期待が集まった。

だが、4月初旬の70.3オーシャンサイド(カリフォルニア州)が、米国内レースシーズンのオープニングイベントだったが、州内の感染者爆発でキャンセルされ、また同じ様に他のレースもキャンセルされるのではないかと再度不安が広がった。

しかし、その翌週の70.3テキサスは、同じプロトコールを採用し、エイジグループとプロレースが開催。その勢いで、その後ほとんどの米国内レースが開催された。

5月の70.3セントジョージは、70.3世界選手権のプレレースとして3,500人規模で開催。多くのエキスポベンダーを迎え、エキスポや観戦者の制限がなくなった。

2021年5月のプレレースに続き、11月に開催されたIM70.3世界選(セントジョージ)のエキスポ。密集状態にならないよう、広めにエリアが設定され、人流が整理されている

その後、ワクチン接種が多くの人へ行き渡るようになり、開催の回数を重ねるごとに、プロトコル自体も少しずつ緩和されてきた。

アメリカでのレース開催の行方は、各州の規制やその開催都市議会での決定によって、大きく影響される。例えば、テキサスやフロリダなどの保守派が多い州やカウンティーは、スポーツイベントに対してオープンな傾向があった。

ニューヨークなどコロナへの規制に最も厳しいエリアでは、アイアンマン・レイクプラシッドのレースへ出場するのに、ワクチン証明が必要だった。実際、ワクチン証明書のチェックも徹底されず、そこまで厳しくなかったのが現実だが・・・。

しかし、他国のアイアンマンレースがほぼすべて開催キャンセルされていく中、米国の大会のみが開催されていくことによって、新たな問題も起きてくる。

2021IM70.3世界選 © Donald Miralle/IRONMAN

世界選手権スロットばらまき?

米国以外のアイアンマンレースのキャンセルが続くことで問題となったのは、キャンセルされたレースに付与された世界選手権スロット(出場枠)の行方だった。

これまで通常アイアンマンレースでは、一大会ごとに最低でも40スロット、地区選手権レベルだと最大で100スロットが付与されていた。

しかし、2020年から2021年のアイアンマンは、米国内のみの開催がほとんどだったため、他国でキャンセルされたレースの世界選手権のスロットが大量に回ってきた。

今年の米国内アイアンマンは、アイアンマンや70.3の世界選手権への出場権を得るにはもってこいのシーズンだったが、逆に世界選手権のイメージが崩れる恐れもあった。

70.3レースでは、150近くのスロットが配られ、ロングでは150から200枠という今までにないスロット数を配布。

特に70.3の大会では、参加人数に比べて、スロットの比率が多すぎることもあった。レース後のスロットロールダウンで受け取る選手がいなくなり、挙手で欲しい選手に配ったり、メールを通してスロットをロールダウンしていたくらいだ。

通常ならエイジトップ10~20くらいまでロールダウンが回ってくる可能性があるが、それ以下のランキングまでロールダウンが回ってくるようだった。

6月に開催されたアイアンマン・コーダレンでは、約2,100人のエントリーに対し、当初スロットが150枠だったが、レース数日前に、アイアンマン・カナダがキャンセル決定、その50スロットが急に加わり、合計で200枠のKONAスロットが付与された。

実際レースは、気温35℃を超える激アツの天候とハードなバイクコースが重なり、30%近い選手が棄権し約1,500人がフィニッシュ。およそ7人に1人がスロットを受け取っているという状況だった。

2021IM70.3世界選 © Donald Miralle/IRONMAN

世界選手権のブランド・イメージ失墜か

これまで40年以上ハワイ州コナで開催されてきた長い歴史のある世界選手権は、多くの選手にとってのドリームレースである。

世界で開催される各レース通常40から100の限られた出場枠を求めて、トップ中のトップのエイジグルーパーだけに渡される名誉あるスロットだ。

この大きなハードルを低くし、世界選手権のレース人数合わせのためにスロットをばらまくことで、世界選手権のブランド・イメージが失墜し、全体のレベルが下がることで、世界選手権としての意義がなくなる。

実際、2021年9月の70.3世界選手権でも、70%近い選手がアメリカ代表で、世界選手権というよりも「全米選手権」という見方をされても仕方がなかった。

そして、先日に発表された2月のアイアンマン世界選手権キャンセルで、新たに5月のアイアンマン・セントジョージが、2021年版アイアンマン世界選手権として2022年5月に開催となる。

すでにセントジョージ大会に、エントリーしている選手達は、クオリファイしていなくても、自動的に世界選手権へと出場できる。

しかし、これでも本当の「アイアンマン世界選手権」として受け入れられるのか?

多くのアスリートにとっての疑問となっている。

2021IM70.3世界選 © Donald Miralle/IRONMAN

2022年レース復活のキーは、ワクチン流通と証明

ここ1年間アメリカでは、感染者数に左右されるよりも、早々のワクチン普及で、多くの制限が緩和され、レース復活のキーとなった。

米国での例やプロトコルを取り入れて、徐々にヨーロッパでのレース開催も始まっている。

米国やヨーロッパの他国では、入国前にワクチンの接種証明や陰性結果さえあれば、入国やレース出場することが可能となっている。

現在では、米国だけではなく世界的にワクチン普及が上回り、このトレンドが続けば、海外への行き来が簡易になり、アイアンマンレースや世界選手権は、通常通りの開催に戻るだろう。

2021年は、新しい形でのレース復活により多くの疑問が浮上することもあったが、2022年はそれらを払拭し、世界のトライアスロンレースが再復活することを望みたい。

■著者プロフィール
山村勇騎(やまむら・ゆうき)
アメリカ在住のトライアスリート・ジャーナリスト。アイアンマンのオフィシャルレースメカニックとして、全米のレースを飛び回りつつ、WEBメディア「TriWorldJapan.com」を創設。英語圏で流通する世界のトライアスロン情報を、日本のトライアスリート向けに発信している。自身も強豪エイジグルーパーで、今回の70.3世界選にも出場予定。

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