文=東海林美佳
Text by Mika Tokairin
写真=小野口健太
Photographs by Kenta Onoguchi
【女子エリートレース】
ソフィ・コールドウェルがランで後続を引き離して独走。WTCS初優勝
5月13日(土)、ワールドトライアスロンチャンピオンシップシリーズ(WTCS)第2戦となる横浜大会が開催された。今年の横浜はパリ五輪に向けての重要なレース。朝から小雨が降ったり止んだりの空模様にもかかわらず、沿道には多くの観客が集まるなかで女子エリートレースがスタートした。
昨年優勝のジョージア・テイラー・ブラウン(イギリス)、WTCS緒戦アブダビで2位に入ったソフィ・コールドウェル(イギリス)、2020年横浜優勝のテイラー・ニブ(アメリカ)やアブダビ3位のテイラー・スパイビー(アメリカ)らトップ選手が集結。日本勢は髙橋侑子、佐藤優香、福岡啓、中山彩理香、井出樹里が出場。
スイムをトップで上がったのはマヤ・キングマ(オランダ)。コールドウェル、ニブ、ケイト・ウォー(イギリス)らもほぼ同時にスイムアップ。バイク序盤ではニブ、コールドウェル、スパイビー、キングマら7人が先頭集団を形成する。優勝候補の一角テイラー・ブラウンはスイムで遅れ第2集団から追い上げる形となってしまう。
佐藤優香もこの第2集団に食い込んでいる。序盤、バイクの強さに定評があるニブが先頭集団を引く形でペースを作り、第2集団にいるテイラー・ブラウンの追い上げを許さない。
バイク後半、雨足は強まり、落車する選手も出るなかで、選手たちは慎重な走りにならざるを得ず、思うように攻めることができない。結局先頭パック7人は後続に1分半以上差を広げる形でランに突入した。
T2を出てすぐにペースを上げたのはコールドウェル。そのまま見る見る差を広げて独走状態で走り切り、WTCS初勝利を挙げた。一方その後方では熾烈な表彰台争いが繰り広げられていた。バイクで先頭集団に果敢にくらいついていたロサ・マリア・タピア・ビダル(メキシコ)がラン2周回目以降快調にペースを上げ、前を行く5人を次々にとらえて自身初の表彰台となる2位でフィニッシュ。
3位には、バイクで攻め、故障明けで臨んだランでも積極的なレースを展開したニブが入った。テイラー・ブラウンは後方から猛烈に追い上げたが7位に終わった。
日本勢トップは29位の佐藤優香。スイム、バイクで好位置につけていたものの、ランで大きく順位を落とした。得意なはずのスイムで大きく遅れをとった髙橋侑子は追い上げかなわず39位となった。
「フィニッシュでは思わず感極まってしまいました。8歳でトライアスロンに出会って、ワールドシリーズの舞台で活躍してきたスターたちを見てきました。ヘレン・ジェンキンスやポーラ・フィンドレー、ジョディ・スティンプソンなどからインスピレーションをたくさんもらいました。彼女たちと同じ舞台で初優勝を飾ることができて、言葉にならないほどうれしいです。ランでは、他の選手にプレッシャーを与えるためにも序盤から攻めました。3周目あたりはかなりキツかったけど、それでもあれがベストな戦い方だったと思います。4周回目にコーチから後続との差が30秒あると聞いて、勝てると思いました」
【男子エリートレース】
格上のランが光り、ヘイデン・ワイルドが今季初勝利。
午後から行われた男子のレースも、雨の中での戦いとなった。注目は2022年シリーズ王者のレオ・ベルジェール(フランス)、昨年横浜で2位のヘイデン・ワイルド(NZ)、1週間前に100kmのPTOヨーロピアンオープンを戦った東京五輪金メダリストのクリスティアン・ブルンメンフェルト(ノルウェー)など。ブルンメンフェルトの盟友グスタフ・イデン(ノルウェー)もパリをにらんでの参戦だ。日本からはニナー賢治、北條巧、小田倉真、古谷純平、佐藤練、安松青葉、内田弦大の7選手が出走した。
スイムはマルク・デーバイ(ハンガリー)マシュー・ハウザー(オーストラリア)、ニナーらが先頭集団でアップ。北條、古谷も10数秒遅れと悪くない位置。ブルンメンフェルトはトップから43秒差と大きく遅れるも想定内か。
バイクは40人ほどの大集団が形成され、序盤はベルジェールが先頭を行く。また、普段は第2集団からバイクスタートとなることの多いワイルドも、第1集団先頭付近にいる。一方のブルンメンフェルトは怒涛の追い上げを見せて先頭集団に追いつくと、そのままたちまち最前線までポジションを上げた。
雨足は再び強まり土砂降りとなる。悪コンディションの中でベルジェール、ワイルド、ブルンメンフェルトがそれぞれ入れ替わりながらペースを上げて揺さぶりをかけ、後方の選手の脚を削っていく。ニナー、古谷、北條、佐藤ら日本勢も先頭と数秒差の好位置でT2へと入った。
ラン序盤はワイルドが先頭でペースを作り、ベルジェールがそれをぴったりマークする展開。それに続くのがイェール・ジーン(ベルギー)、ドリアン・コナン(フランス)、モーガン・ピアソン(アメリカ)といったランの強さが光る面々。
ブルンメンフェルトは1週間前の100kmのレースが影響しているのか、スピードが上がらない様子で、表彰台争いに加わることができない。ニナーはバスコ・ビラサ(ポルトガル)とハウザーとともに6位集団で健闘する。2周回目後半からはワイルドがベルジェールを引き離して独走態勢を形成し、そのままフィニッシュへ。余裕さえ感じられるパフォーマンスで今季初優勝を決めた。
男子も2位争いは熾烈を極めた。ベルジェールは終盤後退し、コナン、ビラサ、ジーンが表彰台を争うなか、ラストの直線で後方から前の選手たちを抜き去り2位を獲得したのがハウザー。3位はビラサが手にした。
日本人トップはニナー。ランの後半は内臓の不調に苦しめられてペースを上げることができず、目標の10位以内にはわずかに届かず11位。しかし、スイム、バイクでの健闘には光るものがあった。
「スイムはラッキーにもいい位置取りができたのが良かった。1周目、前についていって気がついたら上位にいたので自分でもびっくりしたよ。2周目は多少遅れたけどそれでも離され過ぎないように心がけたらあの位置で上がってこれた。バイクは路面コンディションが悪かったので安全を考えて先頭位置をキープした。ランは、28分台を目指して走った。序盤は予定通りのペースで入れたと思う。ラスト1周もその気ならペースを上げられたけど、後ろとの差がかなりあったし、2週間後にある第3戦カリアリを考えてゆるめたんだ」
★詳細レポートは『TriathlonLumina』2023年7月号(89号)に掲載予定。