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最強ダークホース、ニブvs歴代女王。緊迫のKONA世界選

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山村 勇騎

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アイアンマン世界選手権

パリ五輪代表入りを決めた2週間後、70.3世界選を制しているテイラー・ニブがコナ電撃参戦 ©Nigel Roddis Getty Images for IRONMAN

2023年アイアンマン世界選手権ハワイ・コナ
プロ女子プレビュー

進む世代交代。出場55選手の半分はPTOランクTOP50圏外

先月(9月)フランス・ニースで初開催された男子のみのアイアンマン世界選手権に続き、10月14日(土)、今度はトップアスリート女子だけが歴史のあるハワイ島コナに集い、世界イチのIRONMANの座を競う。

かの有名なコナウインド(海沿いの強風)をはじめ、気温、湿度など気象条件の変化で大きくレース展開が変わるハワイ決戦。前回大会のように上手く天候を味方にし、予想だにしない選手が優勝するというサプライズもある。

今年のプロ女子フィールドには、過去の世界王者3人に、常連のベテラン勢や注目の新星らを加えた総勢55人が出場。このうち約50%はPTOランキングトップ50位以内の選手だが、残りの50%はトップ50圏外の選手たちだ。

この数からもうかがい知れる通り、プロ女子のフィールドでも、プロデビューしたての選手が参戦し始め、世代交代が始まっている。

初の試みとなる女子のみのコナ、アイアンマン世界選で、また世界をアッと驚かすような結果をもたらす新星が現れるのだろうか――。

プロ女子
注目選手

チェルシー・ソダーロ

©On

Chelsea Sodaro
チェルシー・ソダーロ

■出身:アメリカ
■年齢:34歳
■PTOランキング:6位
■キャリア:2022年 アイアンマン(IM)世界王者

前回大会で、大方の予想を覆すパフォーマンスを見せた現IM世界王者。昨年は世界選初出場ながら、比較的走りやすい天候の下、そのアドバンテージをフルに使い、得意のランで強さを見せ、沿道観衆・関係者の多くが驚く中、堂々の優勝。

2021年に子どもを授かってから、ママさんプロアスリートとして、すぐにレースへ復帰。どのレースでも、キレキレのランを武器に勝利を重ねてきた。

今季のレースでは、目立つ活躍が少ない中、唯一PTOアジアオープンで3位入賞を果たしている。

彼女の強みはランだけではなく「暑さに強いこと」だ。その強みを十分生かせるレース展開になれば、コナ連覇も狙えるだろう。

ダニエラ・リフ

©Kenta Onoguchi

Daniela Ryf
ダニエラ・リフ

■出身:スイス
■年齢:36歳
■PTOランキング:11位
■キャリア:5×IM世界王者(2015~2018、2021年)、5×IM70.3世界王者(2014・2015、2017~2019年)、五輪出場(2008年 北京、2012年 ロンドン)

ロングの絶対女王として君臨してきたレジェンド。最後に優勝した2021年のIM世界選手権セントジョージ大会以降、多くの強豪選手が現れ、それまで他を圧倒していた強いパフォーマンスが通用しない状況に陥ってきた。

前回の世界選では、得意のバイクで追い上げるも8位に終わっている。

しかし、今年はコーチに再度、名伯楽ブレッド・サットンを迎え、再起を図った。その結果、チャレンジ・ロートでは、クリッシー・ウェリントン(同じくIM世界王者でサットンが元コーチ)が2011年から保持し続けた、ロングディスタンス世界記録を10分更新して優勝している。

セントジョージ大会のように、ふたたび完全復活したパフォーマンスを見せることができれば、王者に返り咲くだろう。

アンネ・ハウグ

©Kenta Onoguchi

Anne Haug
アンネ・ハウグ

■出身:ドイツ
■年齢:40歳
■PTOランキング:3位
■キャリア:IM世界王者(2019年)、五輪出場(2012年ロンドン、2016年リオ)

ITUサーキットで長年活躍し続け、ロング転向後、アイアンマン世界王者に。前回のコナでは、強化したバイクの力を見せつけたものの、ランでトップには届かず3位入賞。

今年のPTOレースでは、そのランスピードを生かし、ヨーロッパオープンで優勝。アジアオープンでは2位入賞。40代にさしかかった今も、そのランは衰え知らず。小柄ながら力強いフォームで、ほかを寄せつけない。

バイク終了時の順位次第ではあるが、今回もランで2時間50分切りのパフォーマンスを見せることができれば、ほかの優勝候補たちにとっても脅威となることは間違いない。

ルーシー・チャールズ

©Kenta Onoguchi

Lucy Charles-Barkley
ルーシー・チャールズ・バークレー

■出身:イギリス
■年齢:30歳
■PTOランキング:4位
■キャリア:2022年 IM世界選手権2位

IM世界選手権では過去4度のランナーアップ(準優勝)、スイムを常にトップで上がるマーメイド。

昨年は故障を乗り越え、ロング復活レースとなったコナで価値ある2位入賞を果たしたが、今シーズン初めに再度、脚の故障に悩まされ、勝ち星を逃してきている。

これまで出場したIM世界選では、すべて2位入賞と、ある意味安定して高いパフォーマンスを見せているが、肝心の優勝に手が届かずにいる。

バイクとランをしっかり強化して、悲願のコナでの勝利を手繰り寄せることができるか!?

テイラー・ニブ

©Ville Kashkivirta_IRONMAN

Taylor Knibb
テイラー・ニブ

■出身:アメリカ
■年齢:25歳
■PTOランキング:2位
■キャリア:2×IM70.3世界王者(2022・2023年)、東京五輪出場

いまトライアスロン界で最も注目を浴びている、現IM70.3世界王者。

ロングへの電撃初参戦を、ほかならぬコナの世界選手権で果たすことになった「最強のダークホース」だ。

8月のパリ五輪テストイベントでは4位に入賞し、アメリカ勢トップで五輪出場権を獲得。その2週間後、70.3世界選に参戦すると、終始独走で先頭を譲ることなく2度目の世界王者となった。

今回は「母親と一緒に出場したい」という理由で世界選手権でのロングデビューを決意。まだ若手ながらも、ベテランに引けを取らない高速バイクレグは、怪物的と言って良いほどの強さを誇り、コナのコースレコード更新もあり得る。

昨年のPTO USオープンで露呈した弱点、「暑さ」への対応がどこまでできるかが、彼女の勝敗のカギを握るポイントになるだろう。

キャット・マシューズ

©World Triathlon

Kat Mathews
キャット・マシューズ

■出身:イギリス
■年齢:32歳
■PTOランキング:7位
■キャリア;2022年 IM世界セントジョージ大会2位、2023年70.3世界選2位

イギリスの軍隊出身で、2015年にエイジでトライアスロンデビューしてから、すぐに頭角を表し、2019年プロ転向後も数々のIMシリーズ戦で優勝。

その勢いは止まらず、初の世界選となった2021年のセントジョージ大会では、多くの強豪やベテランの中で2位入賞。今年のIM70.3世界選でも、タフなランで2位に入り、順調な躍進を遂げてきたように見えるが、昨年出場予定だった世界選手権の1カ月前には、生死を分ける交通事故に遭っている。

そこから奇跡的なリカバリーで、今年の復活レースとなったIMテキサスでは見事優勝。完璧な復活劇を演じてみせた。

初挑戦となるコナで、タフなメンタル&フィジカル両面を生かしたパフォーマンスを発揮できれば、優勝も夢ではない。

アイアンマン世界選手権

前回大会は高速ランナー、チェルシー・ソダーロ(写真手前)が、その脚と暑さ耐性とを存分に発揮して初出場・初勝利を上げ、世界を驚かせた。今大会でもソダーロのような新星が現れるか!? ©Kenta Onoguchi

IMでの実力未知数のテイラー・ニブは、高速ランナーたちから逃げ切れるか?

スイムではルーシーが先頭を引き、現役オリンピアンのテイラーも、そのすぐ後に続くだろう。

今回のレースの見どころは、その後のバイクでの駆け引きだ。

注目のテイラーが得意のバイクでトップへ躍り出て徐々に差を広げ、後続を引き離す展開が予想される。

ウーバーバイカーのダニエラとしては、テイラーとのスイムの差をできるだけ抑え、テイラーと協調してレースをつくっていくのが理想だ。

スイムが弱点のチェルシー、キャット、アンネは、バイクパートで上手くトップ集団に近づき、ラン勝負へともっていきたいところ。

アイアンマンディスタンスでの実力が未知数のテイラーが、ランでどこまで走れるのか。

あるいは、ダニエラがコナのクイーンとしての経験を生かしたランで勝るのか。

それとも、高速ランナーたちが、逃げ切ったウーバーバイカーたちをランでとらえるのか。

いずれにしても今回のプロ女子は、かなり緊迫した面白いレースとなるだろう。

2023アイアンマン世界選
女子トップ3予想

1位 テイラー・ニブ
2位 ダニエラ・リフ
3位 アンネ・ハウグ

▼レース当日のLive配信はコチラでチェック!

■著者プロフィール
山村勇騎(やまむら・ゆうき)
アメリカ在住のトライアスリート・ジャーナリスト。アイアンマンのオフィシャルレースメカニックとして、全米のレースを飛び回りつつ、WEBメディア「TriWorldJapan.com」を創設。英語圏で流通する世界のトライアスロン情報を、日本のトライアスリート向けに発信している。コナをはじめとするアイアンマンやPTOのレースでもオフィシャルメカニックとして活躍している。

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