スイムフォームの可視化が泳力アップのカギとなる
12人のアスリートが3カ年計画でIRONMAN World Championship(アイアンマン・ハワイ)初出場を目指すプロジェクトKONA Challenge(通称KONAチャレ)。メンバーたちは3カ月に一度、サポート施設でそれぞれ測定を行う。
3カ月に一度の測定 自分主導のトレーニング計画
KONAチャレでは、メンバーそれぞれが目標達成に向けたプランを作成し、実行していく。その過程で、各サポート施設のスペシャリストたちがそれに必要なエレメント(客観的指標やアドバイス、情報、アイテムなど)を提供し、目指すべき方向や具体的なアプローチのあり方(仮説)について一緒に考え、その実践や見直しをサポートしていく。
8月5日に行われた第2回フィードバックに向けた2回目の測定が7月中にそれぞれの施設で行われた。今回紹介するのは最新鋭の流水マシーンを導入し、2カ所からの動画撮影により、自分の姿を確認することができる「AQUALAB」。
12人のレギュラーメンバーに加えて、サポートアスリートとして一緒にKONAを目指すルミナのイベント担当まごちゃんこと、孫崎虹奈の測定の様子を例に見ていこう。
Lesson~指導の流れ~
着替えを済ませた状態でインストラクターとカウンセリングを行う。自分の癖や気になるところを自己診断し、報告。2回目以降は前回の内容を復習する。その話の中から、課題を見つけていく。
2.ウォーミングアップ
プルブイを付けずに2分間のウォーミングアップを行う。これと50m(プールスイム)の申告タイムを基に測定での流水速度を決める。ウォーミングアップの動画を見ながらアドバイスを行う。
3.測定
KONAチャレ独自の測定方法でプルブイを付けて設定された流水速度を変えることなく20分間泳ぎ切る。
4.フィードバック
測定時の動画を見ながら次回へのアドバイスを行う。
プラスα フォーム改善やドリル提案
時間が許せば一緒に動画を確認しながらインストラクターからドリル提案もある。
KONAチャレスペシャルメニュー20分間の測定が意味するのは
「僕たちがするのはあくまで提案です。強制することはしません。そのアドバイスをどう活用するかは本人次第なんです。きちんと自分と向き合って、問題意識をもって測定を受ければ何倍も身になります。何度も試して、考察して、修正してやり直して、を繰り返すことでいずれそれは実を結びます」
と話すのはAQUALABの責任者でインストラクターの和田泰仁さん。この指導方法は、KONAチャレのコンセプトと見事に合致する。
指導の流れ(上記)「2」にある測定とは、和田さんがKONAチャレ用に考えたメニュー。本来AQUALABでは、こういった測定は行っていない。流水速度は、プールでの50mのタイムを参考に算出している。その速度を数値化して分かりやすく定義している(下記【表1】参照)。
【クリック・ピンチアウトで拡大】
「算出した流水速度でツライと感じる人がいるかもしれません。ここでは常に同じ流水速度なわけですから、ツライと感じるということは、プールでも実際にタイムが落ちている、ということなんです」
測定では設定した流水速度で20分間完泳することが目標。速度は一定で行うのが第一命題だが、インストラクターが速度の調整を行う場合もある。本来は一定の速度で行うのが基本のため、単純に速度が上がっていけば泳力アップと直結し分かりやすく、目標を立てやすい。
また、一定ペースではないにしても20分間のなかでの流水速度が安定していったり、目標速度でのタイムが伸びていったりすれば、泳力アップの目安になる。ちなみに孫崎はポイント1.6で測定。
プルとキックどちらが大事か
「トライアスロンやエンデュランス系の水泳の場合、プルの質を上げることが大事です。そのためにプルブイを挟んで測定を行っています」
トライアスリートにありがちなのはプルが「横ばい」(下記写真参照)になるということだという。「波に対して強いというメリットはありますが、横ばいのプルだとプッシュから推進力を得られません」。これは、肩甲骨が使えていないことが原因のひとつだという。
トライアスリートのためのピンポイントアドバイス1
横ばいのプル
【写真左】がトライアスリートにありがちな横ばいのプル。プッシュ時に推進力が得られてない。肩甲骨が使えていないので、腕が水面に近い位置になり力が逃げている。本来、【写真右】くらい肩甲骨を寄せてプルができるといい。
Drill①プル改善
ビート板を脚に挟み、プッシュの後に手でタッチ。両方の肩甲骨を寄せる意識で行う。
プルが大事とはいえ、キックの能力ももちろん必要になる。孫崎の場合、ヒザが曲がってしまい、キックから推進力が得られてないことが課題だと和田さんは指摘する。
「股関節から連動させてキックが打てるようになるとなめらかでスムーズなキックになり、推進力も生まれます」
さらに股関節からのキックだと心拍数も上がりにくくなる。そこでキックの質を上げるドリルも教えてくれた。
トライアスリートのためのピンポイントアドバイス2
Drill② キック改善
フィンを付けて顔を上げたままビート版を使ってキックを打つ。ヒザを曲げずにキックを打つことで嫌でも股関節を使ったキックになる(ヒザを曲げないのが正しいキックということではなく、股関節から動かすための練習ドリル)。
AQUALABならば、前方のモニターでキックの様子をリアルタイムでチェックしながら修正できるという利点がある。※フィンが使えない場合はビート板のみでも効果あり。
このドリルは孫崎が「めっちゃキツイ!」と言うように、筋力トレーニングの要素も含まれている。
「とにかくキックを打たない、という人も多いですよね。ウエットスーツがあるし、と。でもポジション取りや遅い人を抜かす、速い人についていく、という場面のスピードの上げ下げには必ずキックの技術が必要です。プルはもちろん重要ですが、キックをおろそかにしないことで、もう一歩スイムスキルをアップさせることにつながると思います」
言わずもがなKONAのスイムはウエットスーツ着用禁止。それを今一度しっかり認識する必要がありそうだ。
「トライアスリートの皆さんの特徴としては、顔が前を向き過ぎていている人が多いことです。ヘッドアップをしますから、その癖もあるのだと思います。ただ、顔が前を向き過ぎているというのは、身体が反っているわけですから、抵抗にもなりやすく下半身が沈みやすいと言えます。さらにお腹が伸びきっていて腹筋が全く使えていないということになります。今回紹介したキックドリルや、手の入水位置を深めにして身体を浮かすなどいろいろと試してみてください」
そういった泳いだ姿勢を自分の目で確かめるのは普段は難しいが、AQUALABの神髄ともいえるフォームチェックならば、動画画面に黄色いラインを映し出すことで姿勢のゆがみなどが一目瞭然だ。
トライアスリートのためのピンポイントアドバイス3
フォームチェック
真上から見て手から足までが真っすぐなラインが理想的
真横からでは上から1本目のラインが水面の位置なのでキックの脚がそこまで戻っていればOK※動画は別途料金がかかるが、その日に撮影したデータをすべて送ってもらうことができる。
泳ぎをリアルタイムで自分の目で確認し、的確なアドバイスがもらえる。プラスして自分自身で気が付いたことを練習で生かす。
そしてまた3カ月後にそれをチェックしていく。的確な客観的視点と自分を見てくれている安心感の両方が得られる。これを繰り返して確実なレベルアップを図っていく。
他3施設での測定の分析も含めた第2回フィードバックの様子はWEBマガジンで9月に公開予定なので、お楽しみに。
★この測定の詳しい様子は孫崎のブログで公開中!こちらもぜひチェック「まごちゃんブログ」
■プロフィール
わだ やすひと
日本選手権、日本学生選手権出場。現役時代はバタフライが専門で、高校時代までは自由形長距離にも取り組む。丁寧かつ的確な指導と優しい語り口で人気のインストラクター。1989年、兵庫県出身。
取材協力=AQUALAB
清潔感のあるラグジュアリーな空間で集中してトレーニングに打ち込める。
>>>KONAチャレ過去掲載記事を読む
◎File01. キックオフミーティング「夢へ挑戦するアスリートたちのリアルタイムストーリー」
◎File02. 第1回フィードバック「レースでもう一段強くなる秘訣は”変化を恐れないこと”」
◎File03. モータージャーナリスト河口まなぶ、 KONAへの焦燥と誓い。
◎「KONA Challenge supported by MAKES」オフィシャルHP
オフィシャルページでは、メンバーのトレーニング状況やピックアップコンテンツなどを随時更新しています。
◎MAKES
https://makes-design.jp/
【AQUALAB他サポート施設】
SPORTS SCIENCE LAB
心肺能力(VO2MAX)、AT値、AT値でのフルマラソン適正ペース、ランニングフォーム評価、AT値での20分走タイムを測定。
R-body Project
ファンクショナル・ムーブメント・スクリーン(FMS)で体のコンディションを骨格のゆがみや関節の可動域などのポイントからチェックし、評価。
Endurelife
AT値で20分間バイクをこいだときの平均パワー/心拍数(PWR/HRT—AT値)、FTP(機能的作業閾値パワー/PWR/HRT—AT値20分の95%)、フォーム、ペダリングを評価。