KONAレースウイークに見る
最新トラモノ事情「4つの視点」
文=大塚修孝
写真=小野口健太
今年も世界最高峰のロングディスタンス・トライアスロン、IRONMAN世界選手権がハワイ島コナで開催される。
世界のトッププロとトップエイジが集うレースウイークでは、レースそのものだけではなく、それに関係する全てのモノやコトもフォーカスされる。
そんな中でバイク関連機材の「傾向」に対する注目度はひときわ高い。
新型バイクのお披露目も聖地コナで「世界同時発表」として行うメーカーも少なくない。昨年のSPECIALIZED SHIVもそうだった。
また、トレンド化、スタンダード化していく前の「兆し」の発見があるのもコナの特長だろう。レベルの高い選手が支持する機材や、その使い方などは見逃せないのだ。
Point of view 01■
「cervelo vs SPECIALIZED」
世界の勢力図は書き換えられるか?
現時点では、バイクチェックイン前のため、あくまでも予想だが――
昨年、cerveloは、480台(GERONIMO Count ※大塚さん自身による全台撮影・調査)で14年連続の使用率No.1だった。
キングとしての不動の地位は変わらないが、2位のTREKや3位のSPECIALIZEDがどこまで追い上げられるのか、毎年期待はかかっていた。しかし結局は、cerveloの圧倒的な強さに、その順位が変わることはなかったのだ。
ただ今年は、さらに勢力図が大きく書き換えられることに期待がかかっている。
もちろん、使用台数で逆転するまでは複数年が必要となるだろう。今年の「期待」は、昨年、ここコナで世界同時発表となり、ルーシー・チャールズらプロ選手が実戦投入した「New SHIV」による巻き返しにある。
先行のS-WORKSに続き、下位グレードのEXPERTも投入され、その「動き」が注目となっているのだ。
新型という意味では、cerveloも「TT&Triathlonシリーズ」と「Triathlonシリーズ」を明確に立ち上げ、価格を抑えたP3ディスクとも言える「P-SERIES」のリリースで対抗しているが、それは先月のことだ。
それぞれ、リリースのタイミングが違うため、単純な比較はできないが、きっと「何か」見えてくるものがあるはずだ。
Point of view 02■
スタンダードvs異形
KONAアスリートたちの選択
cerveloは、3月P3X、4月P5をリリースしている。ほぼ同時期に同一メーカーが、同価格帯の存在する「2タイプ」をリリースしているのだ。まさに「ラッシュ」というイメージの、立て続けのデビューとなったが、UCIレギュレーション仕様のP5については、ツール・ド・フランスなどでプロサイクリストのための「新型TTバイク」が必要だったという背景がある。
一方、P3Xなどのトライアスロン「専用シリーズ」は、その開発コンセプトの通り、徹底リサーチによるcervelo肝いりのバイクであることは間違いなく、そこへの「ブラッシュアップ」も必要だった。
奇しくも同時発表に近くなったが、それによって、従来のスタンダードタイプと異形タイプのどちらをKONAアスリートが選んだのか、ひとつの答えがでるかもしれない。
ただ、第1世代の「P3」も現役で走っているこのタイミングでの新型リリースで、「買い替え」の動きが、すぐにとれたかは判断が難しい。第1世代P5は2012年リリース、第2世代P3は、2013年リリースから6~7年が経っている。その前提があっての見方が必要になる。
Point of view 03■
エキスポに現れた「新型モデル」たち
ARGON18 E-118Tri+
これもややネーミングが複雑となるが、これまでARGON18はTTモデルとしての初代E-118をトライアスロン・モデルとしても代用してきた。その後、E-119Tri+などがラインナップされ、トライアスロン・カテゴリーのバイクが誕生している。
そして、昨今の流れとして「ディスクブレーキ化」が待ち望まれ、今年のツール・ド・フランスでも投入されていたのがNew E-118。そのトライアスロンヴァージョンがこの「E-118 tri+」となる。
ツール投入のUCI仕様となるため、cerveloP5同様の位置付けと言えるだろう。いずれにしても、遅れていたARGON18のラインアップにもディスクモデルが出揃ったということだ。
トライアスロンでもトレンドから一般化・標準化へと向かう、ディスク化の波。こうなると後は、CANYON、VENTUM待ちというところだろうか。
Ceepo KATANA Disc
KATANAのディスクブレーキモデルがコナでローンチされた。Ceepoブースにも展示されていたが、正式にはコナ現地時間・水曜日のceepoパーティーでのお披露目となった。
まだ、出来たばかりの新型で、アンディ・ポッツなど、サポート選手も使用はしないモデルだ。国内でも間もなく発表、来年1月からの展開になりそうとのことだ。
Ceepoは、現在、CP SHADOWシリーズまでがディスクブレーキ仕様となっていたが、KATANAは、スタンダード型のフレームとしても、全ラインアップの中でも中心的存在であり、各部の汎用性など、ユーザビリティも高いモデルとして、ディスクブレーキ化が待ち望まれていた。
そんなKATANAもやはりトライアスロン、そして、アイアンマンを主戦場とするceepoのニューモデルらしく「コナデビュー」(コナでの世界発表)を果たした。
Point of view 04■
さらに進む、DHバーの「カスタム傾向」
ここで言う「カスタム」は、選手専用に作られたワンオフタイプであったり、プロトタイプであったり、既製品の組合せにあたるだろう。
7月のツール・ド・フランスでも使用されていた「VISION」のDHバーなども「Not for sale」(非売品)として展示されていたが、多くのトップトライアスリートたちが、もはや「既存」のDHバーでは満足できなくなっており、その傾向は大きくふたつに分かれる。
ひとつは、大きな流れとしてトレンド化しつつある(ヒジを曲げる)アップライトなポジションを出しやすい・とりやすくするためのDHバーカスタムで、エクステンションとアームレストに(高さを上げられる)ライズが付いている。
もうひとつは、「前腕部全体」を包み込むようなアームレストとなっているもので、これはツールなどでも確認されているが、以前から、トライアスロンでも一部カスタム・アイテムとして確認されてきた。
こちらは腕への面圧を下げ、より快適性・安定性を得るという考え方だが、こちらは、それぞれの腕に合うかどうか、フィッティングとその調整が必要となるだろう。
いずれにしてもDHバーのカスタム化が進んだ「きっかけ」はヒジを基点としたアップライトなポジションの流行だったが、サドル以上にシビアなDHバーの開発はとても大きな課題であり、そこへの関心は、今後さらに高まるだろう。
Point of view 05■
ワンバイ(フロントシングル)
ついにトレンド化へ!?
昨年19選手がセッティングしていたフロントシングル仕様だが、今年は、その「兆し」を超え、「傾向」に向かっていると言えるだろう。
そのフロントシングル化は、何でも良いというわけではなく、SRAMのワンバイによるところが大きく、これは、「X-SYNC」というシステムにより実現している。
フロントチェーンリングが1枚なので変速が不要となるため、チェーンはしっかりと噛み合い、パワーレスポンスを高めていることが重要なポイントだろう。
現地時間火曜日のFELT KickOffパーティにも来ていたメジャーなプロ選手、ミリンダ・カーフレー(写真下)やジョッシュ・アンバーガーらが今回のレースに「ワンバイ仕様」で臨む。
ミリンダはフロント50Tでリアは10~33Tのセッティングだが「このコースでは全く問題
ない、ギヤ比はカバーしている。またパワーレスポンスも良い」とコメントしている。
ジョッシュ・アンバーガーはフロント52T✕リア10~33Tのセッティングだが、やはりミリンダ同様のコメントだった。
現地時間明日(10月12日・金曜日)のバイクチェックインでは、さらなるニューモデルや「傾向」(トレンド)、「兆し」が見られるはずだ。
(※バイクチェックインでのGERONIMO Countの結果や分析は、Triathlon GERONIMOのサイトや、今後発売のトライアスロン・ルミナ誌面などでも紹介していくので、乞うご期待)
■著者プロフィール
大塚修孝(おおつか・のぶたか)
本誌連載などでおなじみのトライ アスロン「モノ」ジャーナリスト。トライアスロンに関わり28 年。特に、アイアンマン世界選手権は、96年から取材を続けて今年で24年目となる。レース出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集力と緻密なデータ分析には定評がある。 Triathlon GERONIMO www.triathlon-geronimo.com