2023年アイアンマン70.3世界選手権プレビュー
IM世界選に向けフロデノら不在の中
連覇狙うブルンメンフェルト&ニブ
アイアンマン70.3(以下70.3)世界選手権開催地のローテーション制が始まり、約10年が経つ。今年のレース(女子8月26日、男子 同27日)の開催地は、北欧フィンランドのラハティ(首都ヘルシンキから北に1時間の位置)。
男女合わせて110人近いプロ選手が出場し、現王者のクリスティアン・ブルンメンフェルトとテイラー・ニブが連覇を狙いにくる。
しかし、1週間前にシンガポールで開催されるPTOアジアオープンもあり、前世界王者(アンネ・ハウグ、ルーシー・チャールズバークレー、ヤン・フロデノ)やPTOトップランカー(女子1位アシュリー・ジェントル、男子2位マグナス・ディトレブ、PTOヨーロッパオープン覇者男子4位マックス・ニューマン)は、アイアンマン世界選(男子9月ニース/女子10月ハワイ)にフォーカスし、70.3世界選出場を見送っている。
地の利ある欧州勢がそろう
平坦コースでの「高速レース」
天候も涼しく過ごしやすい気候となり、選手にとってはパーフェクトなレース環境となりそうな、今回の70.3世界イチ決定戦。
バイクコースも緩やかなアップダウンがあるが、難易度は低い。ランも、周回始めに上りがあるが、ほぼフラットなコースで、高速レースになると予想される。
ほとんどのプロ選手がEU(欧州)出身という観点から、気候に馴染んでいる上に、遠征でのストレスが少ないので、EU勢にとって、そこが強みとなる。
女子のレースは8月26日、男子は同27日、それぞれの戦いの火ぶたは、日本時間の午後1時(現地午前7時)に切って落とされる。
2023IM70.3世界選
注目選手
プロ男子
驚異の連戦続く、ブルンメンフェルト
連覇に向けた「不安要素」とは?
Kristian Blummenfelt
クリスティアン・ブルンメンフェルト
■年齢:29歳
■PTO世界ランキング:1位
■キャリア:現70.3世界王者(2022年)、東京五輪金メダル、2021年アイアンマン世界選手権優勝(セントジョージ大会)
オリンピックでの金メダル、IM&70.3世界王座など、数々の世界タイトルを総なめにしてきたブルンメンフェルトだが、PTOシリーズレースでのタイトル獲得を目指した今季は、勝星を満たせず、悔しいシーズンを過ごしてきた。
これまで、何度もレース中に痙攣に悩ませられるシーンがあり、それをどうクリアできるか。
さらに今回は、世界選1週間前にパリでの五輪テストイベントレースに出場、その2日後のPTOアジアオープンに出場するというハードスケジュール。身体への負担がレースへどう影響するか、これが不安要素となる。
それらのフィジカルな問題をクリアできれば、現世界王者として100%のパフォーマンス発揮し、連覇は確実だ。
Gustav Iden
グスタフ・イデン
■年齢:27歳
■PTO世界ランキング:121位
■キャリア:現アイアンマン世界王者、アイアンマン70.3世界王者(2019・2021年)、2020年東京五輪8位
昨年、初めて出場したアイアンマン世界選をコースレコードで優勝。過去に2度70.3世界王者に輝いている。
ショートでも活躍する同郷ブルンメンフェルトのトレーニングパートナー。3種目とも穴がないオールラウンドなパフォーマンスが強みだが、中でも一番の見どころは、現在コナのランコースレコード(2時間36分)をもつ、高速ランだ。
今年は、ショート以外のレースに出場する機会はなく、2024年のパリ五輪出場にフォーカスしたシーズンを送ってきた。WTCレースで自身のパフォーマンスを上手く発揮できない中、数カ月前に実母が亡くなったこともあり、メンタル面の影響が心配される。
パリ五輪のテストイベントには欠場を決意し、この70.3世界選に注力。世界タイトル奪還を狙う。
難局を乗り越え、現在ロング界で世界最強であることを再度証明してもらいたい。
Jason West
ジェイソン・ウェスト
■年齢:30歳
■PTO世界ランキング:7位
■キャリア:PTOヨーロッパオープン5位、PTO米国オープン2位
70.3レースやPTOレースで、素晴らしいランナーアップを見せた、今年もっとも熱い選手だ。
昨年まで大きな活躍はなかったものの、弱点であるスイムとバイクを改善し、最大の強みであるランで、順位を徐々に上げるレースを展開。
常にランラップ1位の速さを誇り、PTO米国オープンでは、ランで20位から2位まで順位を上げ、他の選手よりも4分以上速い走りを見せた。
バイク終わりまで、うまく上位をキープできれば、得意のランで優勝もあり得る危険な存在だ。
Sam Long
サム・ロング
■年齢:27歳
■PTO世界ランキング:3位
■キャリア:2021年70.3世界選2位
もうベテランの域に入ってきた次世代のアメリカンヒーロー。今年の70.3レースでは3勝し、目標としてきた70.3世界タイトルを狙う。ソーシャルメディアでも人気の選手で、 レースでは、YoYoYoという掛け声で、オーディエンスを常に盛り上げる。
一番の強みは、弱点であるスイムでのロスをカバーできるバイクレグ。現在PTOバイクランキング1位で、常にバイクラップを更新するパフォーマンスを見せる。
注目されるバイクの強さだけではなく、その後のランも他を寄せつけない速さを見せる。今年こそは、世界タイトル獲得に一番近い選手として要注意だ。
2023IM70.3世界選
男子トップ3予想
1 グスタフ・イデン
2 ジェイソン・ウェスト
3 サム・ロング
2023IM70.3世界選
注目選手
プロ女子
いち早くパリ五輪出場も決めた
ニブの「70.3連覇シナリオ」
Taylor Knibb
テイラー・ニブ
■年齢:25歳
■PTO世界ランキング:2位
■キャリア:現70.3世界王者(2022年)、2023年PTO米国オープン優勝
2021年からミドルにも参戦し始め、マルチにショートでも活躍する若手のオリンピアンで、現70.3世界王者。先日のパリ五輪テストイベントでは5位に入り五輪出場権を得ている。
最大の強みは、バイクレグ。ウーバーバイカーと呼ばれてきたリフに、匹敵する実力をもっている。
オリンピック戦線仕込みの高速スイムで、先頭集団で上がり、バイクで大幅な差をつけ、ランでそのまま逃げ切るレース展開を好む。
過去の70.3レースでも、バイクで後続に大差をつけ、毎回バイクラップを更新してきた。
今回は、五輪テストイベントとPTOアジアオープン出場後の世界選参戦という、プロ男子のブルンメンフェルトと同じ過密スケジュールだが、昨年同様の展開へもちこめれば、2連覇は間違いない。
Daneila Ryf
ダニエラ・リフ
■年齢:36歳
■PTO世界ランキング:5位
■キャリア:5度アイアンマン世界王者(2015~2018年、2021年)、5×アイアンマン70.3世界王者(2014・2015・2017~2019年)
2013年のロング転向以降、ロング界の絶対王者として君臨。セントジョージ世界戦で、5度目の世界王者となった。
圧倒的なバイクパフォーマンスで、どれだけ差を広げられるかが、リフの優勝の分かれ目となる。
昨シーズンは、アイアンマン世界選(セントジョージ大会)優勝後も、アイアンマン世界選(コナ)で8位という悔しい結果に終わる。今年も、初戦となるPTOヨーロッパオープンでDNFと不調が続いているように見えた。
しかし、地元の70.3レースで優勝後、チャッレンジロートでコースレコードを更新するなど、ネガティブな結果を払拭するパフォーマンスを見せた。
今年から、過去に何度も世界王者へと導いた名伯楽ブレット・サットンを再度コーチに迎え、ドリームチームを復活。70.3世界タイトル奪還できるか、注目が集まる。
Emma Pallant
エマ・パラント
■年齢:34歳
■PTO世界ランキング:9位
■キャリア:2018年70.3世界2位、2022年70.3世界3位、現デュアスロン世界王者
元トラックランナーとして五輪トライアルにも出場経験もある高速ランナーだ。
過去に、2度の70.3世界戦入賞経験もあり、トライアスロンだけではなく、デュアスロンでも、何度も世界王者に輝いた。
弱点であるスイムを向上し、上手くバイクで順位をキープできれば、ハーフ1時間20分を余裕で切るランで、優勝も確実に見えてくる。
暑さに弱いイメージがあるが、フィンランドの涼しい気候が上手くハマれば、本来のパフォーマンスを十分発揮し、去年70.3世界戦3位以上の結果を出せるだろう。
Tamara Jewett
タマラ・ジュエット
■年齢:33歳
■PTO世界ランキング:11位
■キャリア:70.3オーシャンサイド優勝(2023年)
今年もダークホースとして要注意の選手だ。エリートランナーとしての実力を大いに生かし、過去にハーフ1時間12分台の速さを見せる。
今シーズンは、強豪が集まった70.3オーシャンサイドで、スイムを強化した姿を見せ、先頭集団でバイクへ。得意のランで強さを見せつけ優勝を果たした。
PTOヨーロッパオープンでは、ランで順位を上げ4位フィニッシュ。今回の世界選でも、スイムとバイクの成長次第では、同じような展開で上位陣を脅かす存在となるだろう。
2023IM70.3世界選
女子トップ3予想
1 テイラー・ニブ
2 エマ・パラント
3 ダニエラ・リフ
▼男女プロのレース前記者会見はコチラ
■著者プロフィール
山村勇騎(やまむら・ゆうき)
アメリカ在住のトライアスリート・ジャーナリスト。アイアンマンのオフィシャルレースメカニックとして、全米のレースを飛び回りつつ、WEBメディア「TriWorldJapan.com」を創設。英語圏で流通する世界のトライアスロン情報を、日本のトライアスリート向けに発信している。アイアンマン・シリーズ戦などでメカニックとしても活躍している。