希代のアイアンマン世界王者は
なぜ「KODA」に共感したのか?
コナ(アイアンマン世界選手権)を3度制したオーストラリアのアイアンマンレジェンド、“クローウィ”ことクレイグ・アレキサンダー。近年は「Sansego(サンセゴ)トライアスロンクラブ」の代表としてエイジグルーパーのコーチングを手がけるほか、アイアンマンの伝道師として世界中を飛び回り、トライアスロン界に深く関わり続けている。
彼がその哲学に共感し、アンバサダーを務めるスポーツニュートリションブランドが「KODA」だ。かつてはShotz(ショッツ)の名前で販売されており、スポーツジェルや電解質ドリンクの先駆け的な存在として覚えているトライアスリートも多いのではないだろうか。
選手として、コーチとしてレース中の補給の重要性を知るクローウィに、補給戦略について、そして近年のアイアンマン界の情勢や彼自身のコーチング哲学についても話を聞いた。
(※インタビューは2024年10月に開催されたアイアンマン世界選手権男子レースウイークのコナで収録)
取材=東海林美佳
写真=小野口健太
母国オーストラリア出身の英雄グレッグ・ウェルチがコナ優勝を果たしたことに触発され本格的にトライアスロンに取り組むようになり、90年代後半にはITU(当時)ワールドカップを転戦。大病を患った後、2005年に70.3に転向すると、翌2006年に開催された第1回のIM70.3世界選手権で優勝。2008年と2009年にはコナ連覇を果たす。2011年には70.3世界選で2度目の優勝、コナで3度目の優勝を飾り、同じ年に両方のタイトルを獲得した最初の選手になるなど、数々の金字塔を打ち立ててきたレジェンドアスリート。1973年、豪・シドニー生まれ。
エネルギーと水分&電解質を
分けて考えるという補給哲学
――KODAとの出会いは?
KODAの設立者、ダリル・グリフィスとは、ここコナで出会って意気投合したんだ。ちょうど僕がアイアンマンのキャリアを終えたばかりの頃。オーストラリアの大会会場で彼の話を聞いて、エネルギー補給と水分&電解質補給を分けて考えるという彼の補給哲学に共感した。当時すでにそのことは理論としては言われてはいたけれど、それを実践しているメーカーはほとんどなかった。
――水分補給とエネルギー補給を同時に行うタイプのものも多く出ていますが、KODAはそれをはっきり区別しているということですね?
そうだね。水分とエネルギーを同時に摂ると濃度の関係で吸収されにくくなって、問題が起きやすくなる。それがひとつ。
それと、エネルギーの摂取量を決めるのは運動強度。例えばアイアンマンと70.3では運動強度が違うから、1時間に摂取すべき糖質の量も変わってくるわけだ。
一方で、水分や電解質の必要量は気温や湿度に基づくもの。ここコナでレースするのと、涼しいニュージーランドでのレースでは違っていて当然だ。つまり、エネルギーと水分&電解質の摂取量を決める条件は別。分けて考えることが理にかなっているんだ。
それと、ダリルはナチュラルな成分にも非常にこだわりがある。彼はフードテクノロジーのバックグラウンドがあるので、身体が求めるものは何か、ということだけでなく、良い素材、良い製品とはどんなものかを知り尽くしている。
もうひとつ、彼が強く主張しているのが、必要な量は人によって異なるということ。僕と君とでは汗をかく量も、汗の成分も違う。長い間、栄養学の世界ではひとつのセオリーをすべての人に同じくあてはめてきたけれど、それではダメなんだ。今ようやくそのことが注目されてきていると思う。
――あなたの現役時代と比べて、補給はどう変わってきていると思いますか?
メーカーはより知識を得て、製品は確実によくなっていると思う。僕の現役時代は多くの選手が胃の問題でパフォーマンスを落としていた。今はより吸収されやすいように、テクスチャーやフレーバーも進化しているよね。
僕が現役の時は、コカコーラだのみだったんだ。理想的な補給とは言えないけど、シンプルな糖分で、余計なものが入っている当時のジェルやドリンクよりも優れていた。理想的ではないけれど、当時選べるものの中では一番ましなものだったと思うよ。
――補給の進化は、近年のプロのパフォーマンスの進化に関係していると思いますか?
間違いなく要因のひとつになっていると思うよ。
これまで、スタートから5〜6時間まではハイペースを保ててもその後がもたないことが多かった。今はレース終盤まで高いペースをキープできる選手が多くなっている。これは、エネルギー補給の進化が大きい。
他にも、シューズの進化、バイクのエアロ性能の進化によって、これまでと同じ力でより楽に速く前に進むようになっている。スイムだって、スイムスキンは僕の頃はなかったからね。
もちろんアスリート自身も進化している。サム・レイドロウのような3種目で高いパフォーマンスを発揮できる選手が出てきた。もちろん彼のようなハイレベルのパフォーマンスを続けるには補給が欠かせない。途中でつぶれないためには、補給戦略が鍵になる。
現役時代にはなかったものばかりで
羨ましくも思う
――そんな現状をご自身ではどう感じていますか?
テクノロジーのイノベーションはスポーツそのものにとっても、ビジネス面にとってもいいことだと思う。僕の現役時代にはなかったものばかりだから、羨ましくも思うよ。
今のシューズやバイクや補給アイテムを使って当時レースできていたなら、どんなパフォーマンスを出せただろうと、つい思ってしまうね。
エイジグルーパーが強くなるために
最も重要な要素とは?
――競技に進化をもたらしたと言われるノルウェー式メソッドについてはどう考えますか?
素晴らしい成果を出しているということは、彼らは正しいことをやっているということだよね。ただ、そこまで他の選手と違うことをやっているのかというと、そうではないと僕は考えてる。
ノルウェー式といっても、成功しているのはグスタフ(イデン)とクリスティアン(ブルンメンフェルト)のふたりだけ。彼らがアスリートとして秀でているからだとも言える。秘密の特別なメソッドがあるのではなく、彼らがすごい練習量をこなしていること、そして賢くトレーニングをしていることが結果を生んでいるのだと思う。
彼らを支えるチームも秀逸だ。バイクポジションから補給、そしてリカバリーといった面に至るまで、サポート体制があって結果を出せているんだ。
彼らはとにかくベースづくりに膨大な時間と労力をかけている。これは非常に基本的なことでもあって、大きなベースがあればより高いビルが建てられる。それが、ノルウェー式の真髄だと思うよ。
――エイジグルーパーをコーチしているそうですが、コーチングにおける哲学を教えてください。
トライアスロンのトレーニングはロケット科学ではない。最先端のことよりも、まずはベーシックな部分を大事にしている。まずは楽しめているかどうか。トレーニングを楽しめないと長続きしないからね。
それと、自分がどれだけ進歩したかが見えるようにすることも大事。エンデュランススポーツにおいては継続性こそもっとも大切。トライアスロン以外のこと、仕事や家族とのバランスをとりながら、無理せず継続してトレーニングを積むことこそ、トライアスロンを長く楽しむ秘訣だと思うよ。
About「KODA」
KODAは当初ニュージーランドで「Carboshotz」として誕生。日本上陸(輸入)は1994年。その後「shotz」としてオーストラリアで生産されるようになり、アイアンマンやトレイルランニングなどのエンデュランススポーツやエクストリームスポーツで限界に挑むアスリートを支え、数々の偉業を達成してきた。2018年に「KODA」にリブランドし、アスリートがゴールを目指すという想いを込めて、音楽用語で最終章を意味する「コーダ(Coda)」と、アイアンマン世界選手権の舞台であるハワイ・コナ(Kona)を組み合わせた新たなブランド名「KODA™」が誕生。スポーツ栄養学に基づいた商品と啓蒙活動を拡大している。