関根明子の徒然なるままに#023
前回のコラム>>【私が現役引退を決意するまでの数カ月】
2025年の目標はトライアスロンレース出場
新年あけましておめでとうございます。熱狂したオリンピックが終わって過去のものになり、新しい年が始まりました。皆さんは今年をどんな1年にしたいでしょうか。目標は立てたでしょうか。
現役を引退してから実は長らく明確な目標がもてなかったのですが、今年は違います。今年はどこかで気候の良い時期にレースを1本走ってみたいのです。そしてもう一度心身を鍛えなおし人生の後半をしっかり生きたい。50歳を目前にしていまそんな心境です。
元旦こそテレビで駅伝を見ながらゆっくりと過ごしましたが、2日からは毎日ランニングを続けています。ときに音楽を聴きながら、たまに愛犬まるちゃんをお供に、半分引きずられながら(笑)。
やっぱり「継続は力なり」です。最近は足の形が変わり、走りの感覚が日に日に良くなってきました。今日は接地のタイミングを意識しようとか、いつもより腕をもう少し抱えてみようかとか、その日のテーマを決めて走っています。
そういう時に尊敬する三宅義信さん(1964年東京オリンピック重量挙げ金メダリスト)の言葉を思い出します。「体調が同じ日はないから、いつも新鮮で日々のトレーニングに飽きることがない」そんな師匠の言葉をふと思い出しながら、日々変化していく身体を楽しんでいます。
子育てから感じた「怒り」に関する違和感
春から小学校3年生になる娘が、もう少しでクロールが泳げるようになりそうなので、毎日娘に「泳げるようになったら夏くらいに、子どものトライアスロンの大会に出てみようね~」と誘っているのですが、「トライアスロンだけは絶対に嫌だ!」と言います。
娘と買い物に行く際など、たまに一緒に自転車で出かけるのですが、いつもつい専門家の目で見てしまいます。ブレーキのタイミングや車間が気になってしまい、ついつい細かく注意してしまいます。それが嫌なのかも知れません。そんな時コーチングは難しいなと思います。
自分の子も他人の子も、コーチングするときに大切なことは同じなはずなのに。つい自分の子どもとなると、今まで勉強してきたことを一瞬にして忘れてしまったり、頭の片隅にあっても怒りの感情に対するブレーキが利かず、様子を見たり、見守ったり、待ったり、無条件で話を聞くことができません。いつも後味の悪い結果となってしまいます。
毎回「だって人間だもの!」と言い訳はできません。自分の感情、特に怒りをどうやってコントロールすれば良いのか。人間関係においても日々の子育てにおいても、この怒りに関連する悩みは常に私のそばにあります。
息子の部活動きっかけで学びの場へ
前回のコラムにも書きましたが、昨年3月に元バレーボール日本代表だった益子直美さんが主催する「監督が怒ってはいけない大会in山口」に運営スタッフとして参加してきました。
参加を希望した理由はいくつかあります。まずは長年コーチングを学びながらも、心の中では本当に怒らない指導はできるのか? という疑問が拭えなかったこと。怒らない指導方法で結果も出している指導者のロールモデルが身近にいなかったこと。自分がこれまで受けてきた指導を肯定はしないものの、でも心のどこかでやっぱり間違っていなかったのではないか? と相反する考えに困惑していたこと。
その答えを見つけたかったからです。そして最後に私を参加に向けてプッシュしたのは、長男の部活動で受けている指導について思うことがあったからでした。
長男は中学校の部活動でサッカーをやっていたのですが、ある日顧問の先生から電話がありました。要約すると欠席連絡なしで休む。嫌いな練習(ランニング)の時にサボる。練習試合の時途中でお腹が痛くなりトイレに行ったまま、ずっとトイレから出てこなかったことがあったなど、数々の問題行動がチーム全体の士気を下げているということでした。
まずは保護者としてチームにご迷惑をおかけしていたことを深くお詫びし、長男と一度話す機会を設けますということで電話を終えました。その後すぐに長男と話す機会をもち、いろいろと本人の言い分を聞いたのですが、やはり長男の至らないところは否めず、母として少々がっかりしたのですが、話の終盤になぜ試合中にトイレに行き、籠ったまま出てこなかったのかと理由を聞いたところ本人曰く「試合中ずっとコーチが怒っているから嫌になった」と言うのです。
教育の一環で行っている部活動の指導が本当に長男の言う通りであれば、保護者として聞かなかったことにはできませんし、とても心配になりました。
本当なのかどうか事実を確かめたいと思っていたタイミングで、サッカー部の練習試合の際に引率する保護者が必要になり、実際に現場を見ることができるチャンスに恵まれました。長男に次回の試合は私が引率することを伝えると大変嫌がりましたが、「お母さんはお前が言ったことが本当か確かめに行く!」と言うと、しぶしぶ納得しました。
当日、いざ試合が始まると本当に長男の言うとおりコーチ(外部指導者含む)がずっと怒鳴っていました。具体的なアドバイスや戦略がほとんどなく、大半が犯したミスに対して「何やっているんだ!」とか「おいおい、ちゃんと話聞いてる?」など、ヤジともとれるような言葉のオンパレードでとてもがっかりする内容でした。
最後は聞いている私が気分が悪くなるくらい、ずっと選手を叱咤していて悲しくなってしまいました。選手たちは覇気がなくなり、萎縮していました。胸が痛みました。これは大きな問題だなと感じました。
余談ですが自宅に戻った長男が第一声私にひと言「ね?ずっと怒ってたでしょ?」(笑)。
自分を含め私たちはなぜ怒りを指導に使ってしまうのだろうか。素朴な疑問でした。
「今、怒っていますか?」
百聞は一見にしかず「よし!」と、行動に移すことにしました。益子さんに直接会ってジックリお話を聞いてみたくなり「監督が怒ってはいけない大会in山口」の大会スタッフとして行かせていただくことにしました。
この目でしっかり勉強してこよう、そう思いました。
大会当日はあいにくのお天気でしたが、子どもたちはとても元気でした。会場の体育館に到着してざっと見まわすと、20~30チームは参加していたでしょうか。ひとつの体育館ではキャパが足りず、車で10分ほど離れたもうひとつの会場と合わせて行っていました。トーナメント制ではなく、負けても次があります。体育館には子どもたちの歓声と熱気が充満していました。
過去の大会が新聞やさまざまなメディアに大きく取り上げられていたことを知っていたので、もう少し大掛かりな大会を想像していましたが、すべてが手作りという印象でした。
保護者を含めた参加者がみんなでこの大会を作り、盛り上げようという雰囲気が子どもたちの歓声とともに会場を明るくしていました。
監督が怒ってはいけない大会ですが、怒ることをすべて禁止しているわけではありませんでした。
「ルールを守れなかったとき」「取り組む態度・姿勢が悪かったとき」「いじめや悪口を言ったとき」「危ないことをしたとき」こういうスポーツマンシップに外れたことをしたときは例外です。この大会で禁じているのはプレー中のミスに対する感情的な叱咤です。
私たちスタッフの役割は試合をしている会場を巡回しながら、怒っているまたは選手に叱咤している監督を見つけたら、黙って監督の横に座り「いま怒っていますか?」と(笑)話しかけることです。この大会に出ると決めたからには、もちろん大会の趣旨は理解していると思うのですが、それでもやっぱり怒ってしまう監督がいます。
よく観察していると、そのような監督は怒りながらずっと指示を出しています。試合中こんなにひっきりなしに指示が来たら、何かを考えたり、話し合ったりする時間がないのではないかと思いました。選手たちも失点するたびに監督の顔色を見て指示を仰ぎます。ジュニア世代だからかも知れませんが、私はこれまで個人競技の経験しかなかったので、バレーボールはこんなに試合中に指導者とコミュニケーションをとるのかと驚きました。
そのような監督の横に黙って座り一緒に試合を見ていると、監督も次第に冷静さを取り戻し、見守る時間が長くなります。すると選手たちも選手間でコミュニケーションをとるようになります。振り返って監督の顔を見る時間が減り、お互いに指示やアドバイスをし合いながらチームワークが生まれてきます。そのチームは負けていたのですが、だんだんとスパイクが決まるようになり、流れが変わり逆転しました。
毎回そのような理想通りにはいかないにしても、選手たちにあるていど責任を持たせ、考えさせることのもつパワーを実感した瞬間でした。そのような試合内容で負けたとしても、絶対に次に繋がります。悪い内容で勝つりも、良い内容で負けた方が何倍も良い経験になります。結果をコントロールすることなく、短期的な結果より長期的な成功を見据えること。失敗から学ぶ猶予を与えること。この場面から学んだことでした。
そしてもうひとつ印象に残った出来事がありました。
この大会に出ると決めたからには、もちろん大会の趣旨は理解していると思うのですが、それでもやっぱり我慢できずに怒ってしまう監督がいます。叱咤しようとして私に気が付き、怒りを抑えたひとりの女性コーチが私に言った言葉が胸に刺さりました。
「だって何回言っても同じミスをするんだもの!」
なぜ胸に刺さったのかと言うと、実は私も日々の子育てにおいて何度もこの言葉を使ってしまうからです。
なぜその言葉を頻繁に使ってしまうのか、自分の中で掘り下げた時、思い当たることがありました。私の場合はまず完璧主義からくる理想の高さがありました。こうなるべきだとか、こうあらねばならないという強い信念があることに気が付いたのです。
その価値観から外れると猛烈に腹が立ちます。他にはクヨクヨして自信がなく消極的な態度を見ると、自分の中で認めたくない嫌いな性格の一部と目の前で起きていることが重なり叱咤したくなります。
怒りをコントロールするにはまず自分を知ることから
今回の一件で学んだことは、自分自身をよく知り、怒りの感情の背景を知っていることは、自己をコントロールする力と今後の指導に大変役に立つということでした。
できないのにはできない理由が必ずあり、それが怠慢からなのか、技術的な問題で時間を必要とする問題なのか、または段階的な問題でまだそれを行う力がないのか。コーチングにおいては冷静にそこを見極ることがとても大切なのだと学びました。
怒りで選手をコントロールするのではなく、たとえ年齢差があったとしても互いを尊重して大切に思い合い信頼関係を結ぶ。そのような指導ができるように自分を自律しながら一歩一歩進んでいきたいなと思います。
そうなるとやっぱり思うのは……何事もまずは自分の半径5mということで家庭からになりますね(苦笑)。
日々の育児から学び、内でも外でも言動を同じにしていくことだと思います。外では偉そうなこと、格好いいことを言っておきながら、家庭内で矛盾していたら説得力がありませんしね。
今、今年の目標がもうひとつできました。「家内安全」違うか(笑)。
次回は引退後にスピード妊娠・出産の経緯から指導者を目指す過程などを書かせていただきたいと思います(※あいだが空かないように鋭意努力します!)
※1カ月に1回程度不定期更新。
【コラムを最初から読む】
>>#001 オリンピアン関根明子さん、コラム始めます!~徒然なるままに~
>>#002【水泳から陸上へ――高校受験が転機に】
>>#003【トライアスロンとの運命的な出会いのきっかけとなった人】
>>#004【本格的にトライアスロンの道へ】
>>#005【シドニーオリンピックをどうやって決めたのか】
>>#006【先輩の背中を見て真っすぐ強くなった私】
>>#007【期間限定のはずが にしきのあきらさん の言葉に勢いで……!?】
>>#008【アテネに向けて再出発 カナダにトレーニング留学】
>>#009【理想の選手とコーチの関係性とは】
>>#010【アイアンマンに挑戦したのは、 自分の殻を打ち破るため】
>>#011【アテネオリンピック前に三宅義信さんから学んだ勝負哲学】
>>#012【あとを追いかけるばかりでは追いつけても追い越せない】
>>#013【アテネを経て改めて想う選手と指導者の距離感】
>>#014【年末にオススメ 思い出の棚卸】
>> #015【シーズン初戦に向けて プロでも気を付けるべき暑熱順化】
>>#016【2006年アジア選手権で奇跡的な銅メダルの裏側】
>>#017【2006年世界選手権 諦めず最後まで走り切った結果…】
>>#018【アジア選手権に思うこと】
>>#019【スキルや想いを紡いでいくこと】
>>#020【「自己コントロール」のための「セルフトーク」の重要性】
>>#021【アクアスロン出場であらたな自分を発見】
>>#022【私が現役引退を決意するまでの数カ月】
九州国際大学附属高等学校女子部陸上競技部。ダイハツ工業株式会社 陸上部に所属。1998年トライアスロンへ転向し、10年間プロトライアスリートとして活動。2008年に引退後、現在は3人の子育てをしながら、トライアスロンやランニングのコーチとして活動中。1975年生まれ、福岡県北九州市出身。
関根さんがメインコーチを務める、埼玉県さいたま市にある埼玉スタジアム2002公園を拠点に活動するランニングとトライアスロンのクラブ
SAI ATHLETE CLUB SAITAMA《主な成績》
1998年 ソウル国際女子駅伝 日本代表、横浜国際女子駅伝 近畿代表
2000年 シドニーオリンピック トライアスロン日本代表
2004年 アテネオリンピック トライアスロン 日本代表
2006年 アジア競技大会 (ドーハ)