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【あとを追いかけるばかりでは追いつけても追い越せない】#012 関根明子

投稿日:2023年10月25日 更新日:


ルミナ編集部

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2004年アテネオリンピック 関根明子

2004年アテネオリンピック 写真=関根さん提供

関根明子の徒然なるままに#012

前回のコラム>>【アテネオリンピック前に三宅義信さんから学んだ勝負哲学】#011

みんなが気になる選手村ってどんなところ?

2004年のアテネオリンピックの開会式は、洗濯物をたたみながら自宅のテレビで見ていました。「わー! 本当に始まっちゃったよー」そんな気持ちが正直なところでした。

選手は自分の出場する競技日程に合わせて現地入りします。今回はレースの少し前に一度選手村に入ってから調整し本番を迎えました。皆さんの選手村に対するイメージはどんな感じでしょうか? 今日はそのベールを少しめくってみましょう(笑)。

オリンピックによって多少の違いはあるとは思いますが、選手村はたとえて言うならば柵で囲まれた大きな新興住宅地のような感じです。アテネオリンピックの選手村は、敷地内にいくつものアパートのような宿泊棟が建っていて、それぞれ国ごとに入りました。

私はテニスの日本代表選手と庭田清美選手と同じ部屋でした。3LDKほどの間取りで、キッチンは共有でした。

ベランダの柵には各国の色とりどりの国旗が下げられており、村内は大変華やかな雰囲気でした。入村式の時にIDカードとコインをもらいます。村内にある自動販売機はそのコインを入れるとすべて無料で飲むことができました。

外出し、戻ってきて村内に入るときは毎回飛行機の搭乗する際のセキュリティーチェックのような検査を受けました。

2004年アテネオリンピック 関根明子

2004年アテネオリンピック 写真=関根さん提供

村内には24時間運行している小型バスがあり、広い村内をバスを使って移動しました。

中心に体育館のような、24時間開いている大きな大きな食堂があり、競技開始が早かったり、決勝が夜遅く終わる選手に対応していました。ビュッフェスタイルで多種多様な料理が並び、いろいろな宗教にも対応していました。

他には映画館、美容室、ゲームセンターやボーリング場、お土産や記念品が買えるショップなどもあり、本当にひとつの町のようでした。リラックスタイムには他国、他競技の選手と記念写真を撮ったり、メダルを獲得した日本人選手にメダルを首にかけさせていただいたりしました。

シドニーオリンピックのときには味わえなかった(参照コラムはコチラ)、素晴らしい時間を過ごしました。村内で知り合い、そのときに仲良くなった陸上1万m代表の田中(現大島)めぐみさんとは現在も親交があり、この出会いは私の大切な宝物となっています。

さてここからは前回の続き。
トレーニング理論について書いてみたいと思います。

スポーツ庁委託事業「女性エリートコーチ育成プログラム」の研修で2019年にオーストラリアを訪れた関根さん 写真=関根さん提供

3種目のトレーニングバランスの正解はあるの?

これを読んでくださっている皆さんは、どのような考え方によって日々のトレーニング計画を立てているでしょうか。3種目のバランスは? 苦手種目と得意種目のバランスなどは?

女子の場合、私の現役時代でもスイムフィニッシュがトップから30秒以上遅れると(今はもっと厳しく5秒から20秒弱といったところでしょうか)、表彰台に上がることがかなり難しかったので、どうしてもスイム練習に比重を置き、それがトレーニングの中心になりました。

水泳は水中動作で特殊な環境下で行われるため、バイクとランのように日常生活で近い動きを得ることができないという理由もあると思います。しかし引退してからしばらく経ってから、その考え方は最善で真実なの? もしかしたらそれは思い込みだったのかもそれないと、そう思うようになりました。

引退後に受けた、スポーツ庁委託事業「女性エリートコーチ育成プログラム」の研修で2019年にオーストラリアに行ったときのことです。

その研修では女性エリートコーチに必要とされるグローバルな視点の獲得および意識の変容を促すことを目的として、Australia Institute of Sports(AIS)が主催するカンファレンスに参加するとともに、ロールモデルとなる海外女性コーチの指導現場の視察やネットワーキングの機会を創出するというものでした。

関根明子コラム

エマ・カーニーさんと再会 写真=関根さん提供

そこで15年の時を経てある方と再会しました。元ITU世界トライアスロン選手権の2度のチャンピオン、3度の世界ランキングナンバーワン、オーストラリアトライアスロンの殿堂入りを果たしているエマ・カーニーさんです。

私が国際レースに出場し始めた1999年頃に強烈なバイクとランを武器に圧倒的な強さで世界のトップに君臨していました。陸上競技出身で、ランナー時代は全国レベルの選手であり、その脚力を武器にトライアスロンへ転向。

後半追い上げ型のスタイルで、スイムを先頭から3分近く遅れてフィニッシュしてもあわてることなく、男子選手並みの脚力で常にバイクの先頭を引き、みんなを引き連れてどんどん上がってくる。そして最後のランで独走し優勝する。同じようなレース展開を得意としていた私には、憧れと尊敬の選手でした。

2004年、心臓に問題があり引退されてから、ずっとお目にかかることはありませんでしたが、思いがけない再開でした。

すぐさま、このチャンスを逃すわけにはいかないと、興奮と喜びの中ご挨拶させていただき、いきなりある質問をさせていただきました。その質問とは「あなたは現役時代どのようなトレーニングをしていたのですか?」。

その答えはとても合理的でシンプルでした。

エマ曰く、

トライアスロンは3種目あるので単純にトレーニング時間とボリュームが増えがちだが、あなたに(人間に)できる量は限られている。女子のエリートレースは時間にして約2時間。その割合を単純に時間に表すと、スイム約20分、バイク約60分、ラン40分。1対3対2。

仮に全体を6とすると、バイクとランで5になる。レース全体の80%以上もバイクとランが占める。この割合で質と量をコントロールしトレーニング計画を立てる。

1週間の流れのイメージはスイムは週に3回~4回。バイクは3回。ランは6回~7回。バイクについては、現役の時は高低差のあるタフなコースの近くに住んでいたこともあり、1000m以上、上るコースなどは普通だった。

エマさん直筆のメモ 写真=関根さんご提供

常にそのような環境でトレーニングをしていた。レースでは人はあてにならない。自分の地力をつけ、集団の力に依存しないこと。

ランニングに関しては中距離の練習をすること。スピードがとても大事。たとえスイムが先頭から30秒遅れたとしても、バイクでその差をキープする。もしくは詰めれるところまで詰めて、最後のランで勝負する。スイムフィニッシュ後の競技時間のほうが長いのだから、バイクとランで十分挽回できる。

以上の内容は主に後半追い上げ型の選手に適合しやすいするかもしれないし、自分の強みを生かし、どのようなレーススタイルで戦うのかにもよると思います。単純にはいきませんが、でも、「なるほど!!!」と唸った記憶があります。

それに繋がる考え方がもうひとつ。
「ここでもか! そうか!」と思った考え方がありました。

関根明子コラム

スポーツ庁委託事業「女性エリートコーチ育成プログラム」の研修で2019年にオーストラリアを訪れた関根さん 写真=関根さん提供

同じくコーチング研修で早稲田大学水泳部に行かせてもらったときのことです。

水泳部のコーチである奥野景介さんは、男子200m平泳ぎの元世界記録保持者である渡辺一平選手やリオ五輪で男子200mバタフライで銀メダルを獲得した坂井聖人選手を指導されており、自身も早稲田大学在学中にロサンゼルス五輪に出場された名実ともに素晴らしい指導者です。

ひととおりトレーニングの様子を見学させていただいたあと、最後にエマと同じような内容の質問をさせていただきました。

「トライアスロンのトレーニングの考え方について、何かアドバイスをいただけないでしょうか」と。

そのときの奥野のコーチの答えは

「オリンピックデイスタンスのスイムは1500mなので、練習で泳ぐ距離としては4000mほどで十分でしょう。あとは一番競技時間の長いバイクで持久力を養い、ランについても同様に考える。競技に対する全体の割合で考えてはどうでしょうか」。

奇遇にもふたりのトップは同じように答えたわけです。

東京OQE

2019年に実施された東京オリンピック・クオリフィケーションイベント(東京OQE)©KentaOnoguchi

オリンピックデイスタンスにおけるスイム偏重は世界的だと思いますが、それの流れを覆して東京オリンピック2020の男子ではノルウェーチームのクリスティアン・ブルンメンフェルト選手が金メダルを獲得しました。

私は幸運にも、オリンピックで金メダルを獲得する2年前に、オリンピックテストイベント前の暑熱対策の一環で山梨県内で合宿を行っていたノルウェーチームのトレーニングを見せていただき、監督にお話を聞くことができました。

そのときにArid監督が言っていた言葉を今もたまに思い出します。以下、Arid監督の言葉です。

「現在のトライアスロン界はスイムとランを重要視している傾向にあるのでノルウェーチームはバイクの強化に力を入れ独自の強化方針を貫いている。現在はバイクの強化がある程度達成できているので、次はランを強化し、最後にスイムを強化する」

後を追うばかりでは、近づくことはできても、きっといつまで経っても超えることはできないでしょう。言うは易し、行うは難し。自分の信念に自信が持てずに貫けなかった過去の自分への自戒も込めて。

そんなこんなを日々思い出しながら、できれば日本人の中から、何か革命を起こすような、そんなわくわくする戦術とスタイルをもつ選手が誕生することを期待したいなと思う今日この頃なのです。

>>次回へ続く。
※1カ月に1~2回不定期更新

【コラムを最初から読む】
>>#001 オリンピアン関根明子さん、コラム始めます!~徒然なるままに~
>>#002【水泳から陸上へ――高校受験が転機に】
>>#003【トライアスロンとの運命的な出会いのきっかけとなった人】
>>#004【本格的にトライアスロンの道へ】
>>#005【シドニーオリンピックをどうやって決めたのか】
>>#006【先輩の背中を見て真っすぐ強くなった私】
>>#007【期間限定のはずが にしきのあきらさん の言葉に勢いで……!?】
>>#008【アテネに向けて再出発 カナダにトレーニング留学】
>>#009【理想の選手とコーチの関係性とは】
>>#010【アイアンマンに挑戦したのは、 自分の殻を打ち破るため】
>>#011【アテネオリンピック前に三宅義信さんから学んだ勝負哲学】

関根明子 Akiko Sekine
九州国際大学附属高等学校女子部陸上競技部。ダイハツ工業株式会社 陸上部に所属。1998年トライアスロンへ転向し、10年間プロトライアスリートとして活動。2008年に引退後、現在は3人の子育てをしながら、トライアスロンやランニングのコーチとして活動中。1975年生まれ、福岡県北九州市出身。
《主な成績》
1998年 ソウル国際女子駅伝 日本代表、横浜国際女子駅伝 近畿代表
2000年 シドニーオリンピック トライアスロン日本代表
2004年 アテネオリンピック トライアスロン 日本代表
2006年 アジア競技大会 (ドーハ) 銅メダル

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